ハイブリッド流浪記(凍結中)   作:安木ポン酢

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 創作の難しさが身に沁みる今日この頃。



 更新日 2013/5/07


第五話 存在の話

「じゃあ取り敢えず一番気になった事を聞いておくけど……」

 

 見事に外堀を埋められてしまい、仕方無く質問を受け付け始めてから十数秒。私が質問者を指定しない事で図らずも大分緩めの膠着状態に……とかそんな感じにならないかなあとも若干思っていたが、やはりそう簡単に上手くいくようなモノでもないらしい。

 

 少々の空白の後、そうして遂に口火を切ったのは蓬莱山であった。

 

 彼女の声に反応してか、妹紅が僅かにその身を乗り出す。その上ちらちらと視線をこちらに向けてくる辺り、彼女が結構な割合で私の話に意識を釣られてしまっている事は最早明らかだった。

 全く。そんなに知りたいなら自分で直接聞けば良いのに。変な見栄を張るからおかしな事になるんじゃないか。

 頑張れ妹紅。私はお前を陰ながら応援すると誓おう、多分。

 

「ヴィーナスって、何?」

 

 ……おっ、と?

 

「すまない。どうやら、その質問には答えられないようだ」

 

「いきなりかよ!」

 

 蓬莱山の声に現実へと引き戻された私は、誠に遺憾ながらその質問に否定の意で以て返す。と、予想していたのとは別の方向からそんな言葉が叫ばれたのが耳に入ってきた。

 妹紅だった。

 

「え……? あ、間違った。うん、何でもない」

 

 ガタン、と地味とも派手ともつかない微妙な音を立てて立ち上がった妹紅はしかし。数瞬程で我に返ると、如何にも都合が悪いというような表情を顏に浮かべながらそそくさと畳に座り込む。何と言うか、色々な意味で色々と気まずかった。

 と言うか顏治ったのか。先程はそれはもう凄い事になっていたというのに一体何時の間に治ったというのか。

 何? もしかしてアレ化粧とかそういう感じだったの?

 

 成る程、コレがかの有名なギャグ補正という奴なのか。僅か一コマでありとあらゆる状態をリセット出来るなんて……殆ど全能じゃないか。

 まあ、違うんだろうが。

 

 うーむ、妹紅はアレだな。どうもフォーマル、と言うか身内以外の者が居る場では存分に羽を広げる事が出来なくなってしまうきらいが有るらしい。いや、さっきみたいに興奮状態だと思いっ切り素が丸出しになるのだが、ふむ。程度は違えど、コレも蓬莱山のそれと大分似通った問題の一つであるのには違いない。

 ああいや、それもちょっと違うか。似ているようで全く違う、というのが一番正確な表現であるような気がする。良く分からない。

 

 それともアレか。コレはワンセットで考えるべきなのか。

 片方はほぼ解決済みだが状況によっては症状が前後するというモノで、もう片方は未解決だが解決の糸口自体は見えているというモノ。しかしその解決方法を実行するとなると片方の症状が悪化する可能性が高まり、かと言って解決を先延ばしにすればそのままなあなあで終わってしまう事も有るかも知れない。

 そうなると余計に厄介な縺れへと変わってしまう。だからと言って解決を急げば今度は全部爆発してしまう、という事も十二分に有り得るので強硬策には出られない。

 面倒な。

 

 だが一旦それが解決してしまえば、一先ずこの二人に関する問題は凡そ消化されるという事実も有る。面倒な手順を踏まずに一発で解決出来るというのならそれに越した事は無い、筈。

 コレ以外にも繕うべき綻びはまだまだ沢山転がっているのだ。

 

 ああややこしい。

 もうアレだアレ。いっその事、全九九階層難易度ルナティック仕様のダンジョンに二人纏めて放り込んでやろうか。勿論抜き打ちで。そうすればなんか吊り橋効果的なアレコレが作用して嫌でも仲良くなってくれるだろう、多分。

 問題は保護者グループだが……幽香はどちらかと言うと崖ライオン的な思考が強いから大丈夫か。しかし八意はどうにも、うーむ。甘やかしているという訳でもないし、融通が利かないという訳でもないのだが、ああもう。コレだから確率で動く奴は……。

 

 ゆっさゆっさ。

 

「――と、ちょっと! 貴女聞いてるの? ちょっと!」

 

「ん……? どうしたんだ蓬莱山。そんなに興奮するなんてお前らしいぞ」

 

「こ、興奮なんかしてない……え、なんて?」

 

「いや、別に」

 

 身体の揺れる感覚に意識を浮上させる。そして右腕に感じる重みに視線を向ければ、なんという事でしょう。そこに居るのは如何にも不満そうな顔をした蓬莱山。こちらが視線を向けても目を逸らす事無く、実に堂々としていらっしゃるではありませんか。

 コレは目出度い。レミリアに赤飯を炊いて貰うように頼んでおかなければ。

 

 喜べ八意。お前の娘は今この瞬間、まさに巣立ちの時を迎えようとしているぞ。

 巣立ちだぞ。卒業だぞ。門出だぞ。家出だぞ。大人の階段だぞ。

 目出度いんだぞ。

 

 まあ、偶然なんだろうが……八割くらいは。

 

「なら良いんだけど……アレ?

 ま、まあ良いわ。それでさっきの話の続きなんだけど」

 

 言い、ごほんと一つ咳払いをして居住まいを正す蓬莱山。何と言うか微妙に爽やかでない表情を顏に浮かべているような気がしないでもなかったが、まあアレだ。多分気のせいという奴なのだろう、うん。

 さて、しかし。

 

「悪いが答えられる質問には限りが有る。正しい質問を頼む」

 

「質問に正しいも何も有る訳無いでしょう」

 

 じゃますんなよォゆうかりん……。

 

 幽香のアタックに場の空気が掻き乱される。成る程、どうやら背後からの不意打ちに不覚を取ってしまったようだ。

 なんという事だろうか。年下には負けないと息巻いておきながらこの体たらく。無様にも程が有るではないか。本来ならそもそもそう簡単にはカウンターを喰らわないようなショットを心掛けねばならないというのに。

 もうコイツは無様なんてモノじゃない。超無様。超越無様。と言うか至極無様。寧ろ有頂天無様。

 

 いや、違う。

 よくよく思い返せば幽香には結構な割合で負け越している、ような。それどころか今までに……いや今までと言っても数日くらいだが、その数日でもたった一度すら口で言い負かした事は無かった、ような。

 

「デラックス・ダイナミック無様だ」

 

「なら、どんな質問だったら答えられるのか教えて頂戴よ」

 

「そうだな。基本的には何でも答えられるが、アレだ。私の一存では決める事の出来ないようなのは流石にちょっと言えない」

 

 当初の予定通り、この場に居る連中のスルースキルも順調なペースで上がってきているようだ。良きかな良きかな。これで安心して逝ける……。

 

 なんか知らないが壮絶に空しくなってしまったので、一先ずふざけるのは終わりにして蓬莱山の問い掛けに大分真面目に答える。すると蓬莱山にもその雰囲気が伝わったのか心なし表情を引き締め……いや、コレはどちらかと言うとほっとした感じの表情であるような気がすると一瞬思ったが別にそんな事は無かった。

 幽香も色々飽きが回ってきたのか、こちらに向いていた矛先を懐へと収めたのが気配で分かった。ふふふ。

 

 …………。

 

「まあ……アレだ。それにその話はちょいとばかし重いんでな。

 ――少なくとも、わいわいがやがやと大人数で集まってするような類のモノでは、決してない」

 

「……さっきの話と比べても?」

 

 先程までのフランクな態度とは違う。形容するならば、そう。恐る恐るといった感じがぴったりと当て嵌まるような様子で、蓬莱山は私に向かってそんな事を尋ねてきていた。

 その問い掛けに対し、私は肯定も否定も返さない。

 

 いや、正確には返せなかった、という方が正しいのだろうが。

 

 救いが無い。

 一体、それはどれだけ残酷で惨たらしい事なのか。ある意味、私はその事を身を以て知ったとも言える。実際にそれを体験した訳ではないという事に言い知れぬ安堵感を抱き、また、同時にどうしようもない程の心苦しさに襲われる。

 

 私は時流妖怪だ。

 物心付いた頃には、既に賢者だった。

 

 

 

「――どうも時流妖怪です。一発ギャグやります」

 

「え……? いや、ちょっ――」

 

「ペトリ皿と掛けて時流妖怪と解く」

 

「その心は?」

 

「存在がギャグです」

 

「五点」

 

 良いセンスだ幽香。ノリの良い奴は嫌いじゃないぞ。

 コンビ組んで下さい。

 

 唐突な私のネタ振りにも即座に反応し、的確な返しを行ってくるだけでなく点数まで付けてくる四季のフラワーマスターゆうかりん。臨機応変な対応お疲れ様です。

 全く。結果的にそうなってしまっただけであるとは言え、凡そ五億年程弛まぬ修練を積み続けた私にまさかその歳で追随する事が出来るとは。幽香はカウンターとかそういう感じの適性がカンストしているに違いない、多分。

 

 と言うか五点って何ですか。何点満点中で五の評価なんですか。一体何段階中の五段階目なんですか。

 怖くて聞けない。

 

 私の一発ギャグによってなのか、それともその行為自体によってなのか。出来れば前者であって欲しいと思うような思わないようなでもやっぱり結構思うような。

 妹紅は今のはどういう意味なんだと幽香に詰め寄り……と言うかペトリ皿って何なんだとか何とか騒いでいて、幽香はそんな妹紅を赤いチェックの上着等を上手い具合に活用する事で闘牛的にのらりくらりと躱している。蓬莱山は何と言うか曖昧な笑いのようなモノを顏に浮かべ、八意は普段通り例の薄い笑みを……あ、コレもしかしてウケてる? ウケちゃってる?

 この雰囲気ってウケちゃってる感じ? え、こんなので撃沈されちゃうのコイツ?

 

 …………。

 

 まあ、兎に角。そんなこんなで湿っぽくなり掛けていた場の雰囲気も大分弛緩したモノへと変わり、危惧していた厄介なアレコレも未然に防ぐ事が出来た、と。

 うんうん悪くない、悪くないぞこの空気。やはり暗いよりは明るい方がずっと良い。魔王と勇者が居たら大体勇者の方が光属性だし。良く分からない。

 

 ――私がかつて追い求めて止まなかったモノ。その答えの殆どが、ここに。

 

 私が嫌いなモノの一つに、涙が有る。しょっぱくて生温かくて、湿気たポップコーンを一日置いた水道水にミキサーで溶かし込んだみたいな味がして。兎に角、不味いからである。

 好き好んで味わいたいとは思わない。

 

 ではどうするか。

 簡単だ。嫌いなモノが有るならば、そうなってしまうような原因を片っ端から取り除いてしまえば良い。

 うーむ、見事に真理を穿った至極完璧な作戦であるだろう、コレは。

 あーあ。本当、柄じゃない。私は外野でわいわい騒いでいる方がずっと性に合ってるんだが。こういうのはもっと別の奴がやるべきだろうに。レミリアとか。

 ああいや駄目か。レミリアはレミリアで問題児二人と変人一人とを抱え込んでいるから一杯一杯かも知れない……ある意味全員人畜無害ではあるが。

 違った、人畜無害なのがいけないんだったか。おまけに妹紅や蓬莱山のように分かり易いトラウマが有るという訳でもなく、単純に気質の問題でしかないのでスピード解決という訳にもいかない。

 要するに、まあ、何と言うか……アレだ。

 

「――アーメン」

 

「いきなりどうしたんだよ……」

 

「いや、今日は祈りの日だから」

 

「つくづく未来に生きてるな……」

 

 呆れていると言うか、疲れていると言うか。凡そそんな様子を隠そうとする事も無く、妹紅はぼそりと小さく呟きを漏らす。一緒に吐き出された溜め息には何と言うか、微妙に落胆的な感情が渦巻いているのが透けて見えていた。

 大丈夫。実物が偶像と違っているというのは往々にして有るものよ。自分の思っていたのとは違うと感じてもガッカリし過ぎてはいけないのだ。まあそんなものかと割り切ってしまうのが賢い反応という訳である、多分。

 

 いや、違うか。コレはアイツが私の事を事有る毎に持ち上げていたのがいけなかったような気がする。アレだ、ハードル上げ過ぎて寧ろ金具が外れた的な。

 全く。ひょっとすると私の事を聖母か何かと勘違いしているんじゃないだろうか、アイツ。絶対なんか変な補正とか掛かってるだろアレは。思い出を美化し過ぎて最早誰だお前状態に陥っちゃってるから。それ私の形をした別の何かだから。

 

 未来に生きるのは良い事だ。こんなにも楽しい「今」をずっと続けていられる。

 過去は省みるモノ。引き摺るモノなんかじゃない。

 

 だから私は生きていく。

 かつての私がそう願ったように。私は私として、そしてかつての私の分も全部引っ括めて、その上で私は笑って生きていく。

 誰かの笑顔を守りたいとか、別にそんな高尚な望みが有る訳じゃない。だけど誰かが困っていて、そしてそれが私の手に余らない範囲のモノであったなら。

 

 だったら私は自分に出来る事をやりたい。手を貸す事は無くても、こっそり足は貸してやるような。

 で、踏ん付ける。ぷしゅっと。何と言うかこう、水風船的なアレで。

 

 どんなに辛く苦しい事でも下らない笑いに変えてしまえるなら。それは一体、どれ程に素晴らしい事であると言うのだろう。

 誰も彼もが馬鹿みたいに笑って過ごす。それもきっと、一つの理想には違いない。

 

 だから私は、存在がギャグなのだ。

 

 

 

「――さて、では気を取り直して。

 はい今回もやって参りました第三八回時流妖怪のドキドキ質問コーナー……」

 

「いや、そういうのもう良いから」

 

 凡そ数十秒程だろうか。何となくわきわきと気が向いてきた私はそんな風にして話の口火を切った。

 と、思ったら速攻で蓬莱山に沈められた。ちょっとかなり悲しかった。

 

 しかしそんな事では挫けないのがこの私。何時の日か必ず三九回目を開催してやろうと心に誓い、私は雰囲気を凡そ真面目なモノへと切り替える。馬鹿みたいに笑うといってもあまりふざけ過ぎるのは良くない。

 何事にも丁度良い塩梅というモノは存在しているのである。

 

 ……しかし、うーむ。

 

 人知れず、視線を横に向けてちらと流す。

 

 そこに居るのは蓬莱山。流石にネタを引っ張り過ぎていたのか、少々呆れたような表情を顏に浮かべている。いや、自覚は無い事も無かったんだが。

 続いて、その隣で何やら例の薄い笑みを浮かべつつもその裏で形容し難い複雑な感情を全く顏に出す事無くぐるぐると渦巻かせているのが八意。複雑と言っても、端的に表すならばまあ……アレだ。悔しい! でも笑っちゃうプルプル、みたいな。いや、既にと言うか常に笑ってはいるんだが。良く分からない。

 

 そしてそんな八意の横で同じように笑みを、但しこちらは人を食ったようなそれをゆらゆらと漂わせているのは幽香。何と言うか、この状況を色々な意味で楽しんでいるのは明白だった。流石に花の大妖怪は格が違う、多分。

 更にグルリと視線を回し、蓬莱山とは反対側……即ち私の左側へと目を向ければそこには妹紅が。例の如く、私が見ているのにも気付かずにちらりちらりとこちらへ視線を投げ掛けてきている。気になっているのに聞けない……みたいな感じのアレを地で行っている彼女の姿を見るのはどうにもまだるっこい。

 

 良し。

 

「今から妹紅がなんか面白い事をやります」

 

「頼むから日本語を喋ってくれよ……」

 

 遂に呆れの感情が臨界点へと達したのか。まるで空気が抜けてしぼみ切ったバレーボールか何かのように、人目を憚る様子も無くボフンと卓袱台へと突っ伏す妹紅。その真っ白な髪の色も手伝って、何と言うかすっかり精力の削げ落ちてしまったような、或いは色々と燃え尽きてしまったような。

 可哀想に。妹紅、お前はちょっとばかし真面目過ぎるようだ。駄目だなあ、お前だってそれなり程度には長生きしているんだからもっと軽やかにいかないと。

 

「駄目じゃない妹紅。今の御時世、モノリンガルじゃとてもやっていけないわよ」

 

「なんで!?」

 

 然程珍しいという訳でもない幽香の奇襲に、しかし当の妹紅は驚きを露わにして叫び声を上げる。残念、コレが妹紅が何時まで経っても妹紅のままである所以であり、また、幽香が何時まで経っても幽香のままである所以でもある。

 当然、妹紅はその事に全く気付いていない。必然、コレも即ち妹紅が何時まで経っても妹紅のままである所以であり、また、幽香が何時まで経っても幽香のままである所以でもある。ややこしい。

 ああ本当に軽やかだなあ幽香は。

 

「なんでも何も、駄目と言ったら駄目なの。そんな細かい事を一々気にしていたらハゲるわよ。

 もしくはハガす」

 

「最後! 最期が全然細かくない!」

 

 やばい妹紅が荒ぶる妹紅になってる。

 

 もしくは荒ぶらされる妹紅。荒ぶり過ぎるあまりそこはかとなく女の最期っぽい何某かが訪れようとしている、ような。

 アレだ。何と言うか、幽香は赤の目とか赤のチェック柄とかがいけないんだと思う。闘牛的に考えて。髪は優しい緑の花ガールなのにどうしてこうなった。

 いやレディだから花ガールじゃなくて花レディなのか。良く分からない。

 

 そう言えば闘牛って昔に比べて大分廃れてしまったような気がする。今はまだ大丈夫でも、その内ここにもやってきてしまう事になるのだろうか。と言うか逆に一体どうやってやってくるのというのだろう。

 歴代の闘牛士でも召喚されるのだろうか。良く分からない。

 

 光陰矢の如し。

 速いモノだな、時代の流れというモノは。

 

「あの子……何だったかしら。そう、兎に角あの引き籠りのものぐさ吸血鬼ですらバイリンガルなのよ。

 つまり妹紅は引き籠りの物臭吸血鬼以下――」

 

「いや! いやいやいやいやちょっと待て! さっきからバイリンガルだのモノリンガルだの言ってるけどアレだから! 古文とか話せるから! 一応バイリンガルだから!」

 

「いっそ清々しい程の見苦しさね……」

 

「うおっ、いきなり無表情になってどうしたんだよ幽香ってなんでこっちに手を伸ばしてくるんだよちょっと怖いんだけどって手をニギニギさせるな髪を掴むな髪を引っ張るな地味に痛い痛い痛い痛いだだだだだだだだ!!」

 

 ……少なくとも、そうなれば妹紅(牛)にとって相当に生き辛くなる事は凡そ間違いが無いと思われる。どうでも良い。

 

 

 

「……えっと、もう良いわ。今ので十分面白かったから」

 

 数分後。互いに互いの髪を掴み合うようにして変な死闘を繰り広げていた二人の勝負にも無事、決着が付き。そのせいなのか何なのかは知らないが、何と言えば良いのか……決闘の余韻と取れば良いのか、それとも言いようの無い沈黙と取れば良いのか。

 兎に角、凡そ良く分からない感じの空気が場を満たしているところにふとそんな声が聞こえる。

 

 蓬莱山だった。

 なんかもう、曖昧な笑いで色々と取り繕う事すら止めていたが。

 

 しかし、まあ、ごもっともである。ここではそんなモノは何の役にも立たない。特に、私に対してはゼロを通り越してマイナスであるかも知れない……かも、知れない。

 取り敢えず、幽香の言う通り一々細かい事を気にしていては駄目だという事は確かだと言える。ハゲるかどうかは定かではないが。

 

 因みに先程の勝負は実力差、体格差、髪の長さ、経験値、闘争心、キャラクター補正、等々。数々様々な要因から幽香の方へと軍配が上がっていた。必死の奮闘空しく徐々に妹紅の方が押されていき、遂に抜き差しならないところまで追い詰められる。

 そしてあわや抜髪……という時になって漸く妹紅が降参の意を訴えたので、女の最期という誰得な惨劇は未然に回避する事が出来た。良かった良かった。

 

「そうか。油断してるとお前もその内こうなるぞ」

 

「胆に銘じておくわ」

 

「蓬莱人に生き胆……」

 

「え?」

 

「いや、何でも」

 

 猫に小判。豚に真珠。

 蓬莱人が胆に銘じても、そんなのはすぐに消えてしまうように思えるのは私の気のせいなのだろうか。多分違う。

 まあアレだ、精々頑張りたまえ。大丈夫、コレに関してはその内自然に分かる時が来るさ。

 

 そうしたら、アイツ等に混ざって一緒に馬鹿をやると良い。

 




 あと二話で序章終了となる予定です。現在スタミナが不足気味ですが、そこまでは何とか。



 次回更新予定日 2013/5/12

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