魔法少女リリカルなのは―流水の魔導師―   作:竜華零

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隠したつもりですが、カップリング(?)が確定しているような気がするので、ご注意ください。
オリ主と原作キャラの組み合わせと言う意味で。
では、どうぞ。


―――― Next Generation.

 

 新暦85年夏、拡大を止めた次元世界は徐々にだが確実に平和へと歩を進めていた。

 僅かずつだが犯罪・紛争の発生率は下がり続け、特にミッドチルダなどの中心世界では10年前の「J・S事件」のような大規模次元犯罪は鳴りを潜めていた。

 それは、そんな時代に生まれた子供達の物語――――。

 

 

「凄い人だねー」

「うん、ホントに」

 

 

 友人の言葉に頷いて、ヴィヴィオは広い会場を見渡した。

 そこは本当に大きなドームで、何十何百と連なる楕円形の観客席の中央にフィールドがある。

 フィールドはいくつかの四角い形をした小フィールドに分けられており、見る限りでは格闘技用のリングのように見える。

 

 

 そしてそれは実際、格闘技用のリングなのであった。

 DSAAと言う運営組織が主催する公式魔法戦競技会(インターミドル・チャンピオンシップ)の地区予選大会、要するに魔法使用OKの格闘大会のような物である。

 10代女子最強を決める大会とまで呼ばれ、実際、プロ格闘家になった上位入賞者も多数いる。

 そんな大会が行われる場所に、ヴィヴィオはいるのだった。

 

 

「リオちゃん、勝てると良いね」

「うん」

 

 

 大会に出場している友人の応援のために、である。

 彼女自身は出場しない、と言うより、格闘に関して自身の才能にそこまでの自信を持っていない。

 魔法学院に通う中で己の才能が高速並列運用にあると知って以降は、(ユーノパパ)の影響もあってか魔力制御・運用系の学者になるための勉強を続けている。

 もちろん、母のようになりたいと思わなかったわけでは無いが……。

 

 

 ……ヴィヴィオも今や、何も知らなかった6歳の女の子ではない。

 16歳になり、身体も成長し知識も増えた、友人関係を含めて世界も広がった。

 それでも長く伸ばした金色の髪をサイドポニーにしているのは母への憧れの名残りであるし、使用しているリボンはやはりもう1人の母の物だ。

 それでもたくさん考えて、そちらの道には行かないと決めたのだ――――現実を見て、考えて。

 

 

「ヴィヴィオ、リオが手が折れそうなくらい手を振ってるけど」

「え……わっ、ホントだ! リオちゃ――んっ」

 

 

 隣でヴィヴィオに教えてくれたのは、コロナ・ティミルと言う同い年の友人である。

 ヴィヴィオが通うザンクト・ヒルデ魔法学院高等科のクラスメートで、初等科の頃からの親友である。

 淡い色合いの髪をツーテールにしていて、大人しそうな雰囲気の可愛らしい少女だ。

 

 

 リングの傍からヴィヴィオ達に手を振っているのが、彼女達が応援する対象である。

 もう1人の親友、リオ・ウィズリー。

 薄い紫の髪をロングにした少女で、全身で元気を表現しているような少女だった。

 そして不意に、審判らしき人に連れられてリオに近付いてきたのだが……。

 

 

「あ、あの人が対戦相手なのかな」

「みたいだね。えっと、えーっと……」

 

 

 リオの対戦相手は、何と言うか、オーラの違う女性だった。

 19歳以下の女子しか参加できない大会なので年齢は19歳以下のはずだが、とてもそうは見えないくらいだ。

 雰囲気は鋭く、リオが向かい合っただけで腰が引き気味になっているのがよくわかる。

 

 

「えっと、アインハルト……アインハルト・ストラトスさん、だって、何だかカッコ良い名前だね」

「アインハルト・ストラトス……」

 

 

 ポシェットから取り出した対戦表に書かれた名前をコロナが読み上げると、ヴィヴィオは何となく口の中でその名前を唱えてみた。

 すると、まさか聞こえたわけではないだろうが――――件のアインハルトと言う女性が、ヴィヴィオ達の方へと視線を向けてきた気がした。

 リングに近い前列の席にいるため、お互いの顔は比較的よく見える。

 

 

(……私を、見てる?)

 

 

 自意識過剰だとは思う、何しろ初対面だ、だから自分達の近くに知り合いでもいるのだろうと思った。

 だがどうも、他の人を見ているようには見えなかった。

 向こうは見上げて、こちらは見下ろしている。

 

 

 紫水晶と蒼玉の瞳(オッドアイ)が、紅玉と翡翠(オッドアイ)を真っ直ぐに見つめている。

 ヴィヴィオは何故か、その視線を外すことができなかった。

 彼女がその碧銀の髪の女性から目を離すことが出来たのは、別の要因による。

 それは隣に座る友人のおかげでは無く、もっと別の……具体的には一部の観客席が騒ぎ始めたからであって、何かと思えば……。

 

 

「あれって……」

「ああ、うん。幼年部の方だね、9歳以下の部の方が先に試合が始まるのかな」

 

 

 フィールドのはるか上に備えられた、立方体型のスクリーンだった。

 面ごとにスクリーンがあり、360度どの角度からでも見えるように設定された物だ。

 そこに映っているのは、別の会場で行われている5歳から9歳の幼年の少女が出場する大会。

 インターミドルのまさに9歳以下の部であって、いわゆる前座のような、そんな映像だった。

 

 

「あれ……?」

「どうしたの、ヴィヴィオ?」

「ううん、あの……気のせいか、あそこに映ってる子に見覚えが……って、あ」

 

 

 その映像の一つに映った1人の女の子の顔に、ヴィヴィオはまさに「あ」と言いたそうな顔をした。

 隣でコロナが不思議そうに首を傾げているが、ヴィヴィオはそれよりも気になる事実を口にした。

 

 

「……あの子、親戚の子だ」

「え、そうなの?」

「えっと、厳密には違うような、そうなような……とにかく、知ってる子なんだけど。何であそこにいるんだろ……?」

 

 

 コロナの隣でしきりに首を傾げながら、ヴィヴィオはうーむと誰かに良く似た唸り方をして。

 

 

「……イオスおじさん、知ってるのかなー」

 

 

 ここにはいない伯父的存在に向けて、そんなことを言うのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 インターミドル・チャンピオンシップ幼年部門、将来の次元世界格闘技の上位ランカーを育成する目的で開かれるインータミドルの正式な下位大会だ。

 とはいえ5歳から9歳の子供の大会は、同年代と比してならともかく、上位大会(インターミドル)に比べて注目度が低いのが常だ。

 上に比べればお遊戯同然――――そう言う評価の大会なのである。

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 しかし参加している子供達は真面目であって、子供なりの野心や目標を持って大会に臨んでいた。

 その中の1人、元気な声で対戦相手に挨拶をする女の子がいた。

 年齢は最年少の5歳、赤と黄の髪飾りを横髪に添えた茶髪の女の子だ。

 リングの上にペコリと礼をした彼女は、爽やかな色合いの水色の瞳を目一杯に見開いて目の前の対戦相手を見上げていた。

 

 

「ほえ~……凄く背が高いんですねー」

「そう言うアンタはチビねぇ」

 

 

 女の子に応じる声は、妙に低かった。

 対戦表によると最高齢の9歳らしいが、平均よりやや低めの身長の女の子の倍くらい大きい、ちなみに横幅は三倍くらいある。

 つまり肉の塊のような少女で、着ているバリアジャケットは内側からはち切れそうになっていた。

 何と言うか、変身魔法の使用を疑いたくなる存在だ。

 

 

 そんな存在が、しげしげと自分の半分以上小さい女の子を不躾な眼差しで見下ろしている。

 女の子の身に着けているバリアジャケットは、少女のそれと比較してやや古い物のようだった。

 どこか騎士甲冑のようにも見えるが、登録術式がミッドなのでバリアジャケットなのだろう。

 首まで詰めた金ラインの入り黒インナー、その上に空色の上着とパンツブーツと言うデザイン。

 二の腕が露出するデザインなのは良いとしても、両腕の「それ」が異彩を放っていた。

 

 

「何だか、薄汚れたジャケットねぇ、もしかして貧乏人?」

「いやぁ、お古なんですよー。そっちはピッカピカなバリアジャケットですねー」

「パパに頼んでプロのデザイナーに作らせたんだもの、パパは管理局の将軍なんだから」

「うわぁ、お金持ちなんですねー」

 

 

 両手を合わせてにぱーと笑う女の子に気を良くしたのか、少女は胸をまさに丸々と張った。

 だからかもしれないが、女の子の両腕に巻かれたそれを、何か汚い物でも見るかのような目で見やってた。

 それは手首のリングを留めとして、ジャケットの薄布を締めるように巻かれた銀の鎖だった。

 

 

「何それ、鎖? 悪趣味ねぇ、それに何だかバッチ」

「やかましい、黙れクソ豚。ぶくぶく太りやがってボンレスハムみたいに吊るしたろか、タコが」

「……は?」

 

 

 少女は目を瞬かせて目の前の女の子を再び見下ろした、女の子は相変わらずニコニコ笑いながら自分のことを見上げている。

 さっきのは幻聴だったのだろうか、少女は首をかしげながらリング上の試合開始の位置にまで下がって行った……。

 

 

「……あっぶなー、ついうっかり素が出てまう所やった」

 

 

 ほぃー、と掻いてもいない額の汗を手の甲で拭う、妙に5歳らしくない雰囲気を持つ少女だが、その仕草だけは妙に子供っぽかった。

 その際に鎖がおでこに擦れて赤くなるのだが、それについては気にした風でもなかった。

 口調に妙な癖がある、どうやらどこかの辺境世界の方言のようだ。

 

 

「お?」

 

 

 リング上のラインの引かれた位置、つまりは自分の最初の立ち位置に歩いて行った所、そこには一冊の本が浮いていた。

 別にふざけているわけではない、実際、茶色い装丁に金十字の装飾が成された本が浮いているのである。

 しかも、どういう理屈かピカピカと明滅している。

 

 

「えー? 大丈夫やよ、パパ私のこと怒ったりせんもん」

<……………………>

「うー、ママは怒るかも……でもパパが庇ってくれてる間に逃げるもん」

<……………………>

「いーの! でるの! やるの!」

 

 

 どうやら何らかの方法で会話を成立させているらしい、その中でさらに口調が幼くなるのが不思議だった。

 女の子は本をガシッと掴むと――手が小さいのでページの一部しか掴めず、本の側が千切られまいと必死のようだ――ぶんぶん振り回しながら自分の唇をペロリと舐めた。

 

 

「さぁ、行くよ行くよ。あのクソボンレスハム……っと、あのお姉ちゃん、パパに貰った(コレ)バカにして、もう何ていうか――――」

 

 

 試合開始のカウントダウンが始まると、女の子は片足でポンとリングを踏んだ。

 展開されるのは、白に近い水色の逆三角(ベルカ)円環状(ミッドチルダ)混合魔方陣(ハイブリッド)

 腕の鎖がチリチリと震える程の魔力量(ダブルエスランク)に、いくつかのリングも含めた周囲の人々の間でどよめきが起こる。

 

 

 対戦相手の顔が引き攣るのを見て、女の子は楽しげな笑みを浮かべる。

 それでも審判はカウントダウンを止めない、流石はプロフェッショナルと尊敬しよう。

 手の中で茶色の装丁の本が何やらチカチカと明滅を繰り返す――気のせいでなければ、「お嬢様――――ッ!?」と叫んでいるような――のは軽く流して、無邪気な笑みを浮かべた女の子は……。

 

 

「――――ストライクアーツ八神家流! アストレア・Y・ティティア! ……縛りま――すっ!!」

 

 

 ……アストと言う愛称を持つ女の子は、「何か」を始めるために、駆け出した。

 彼女の意思もまた、広大な次元世界にとっては小さな小さな輝きでしかない。

 しかし、次元世界を構成する重要な一部でもあった。

 そう……。

 

 

 ……この広い次元世界の中には、幾千、幾万の意思(せかい)が存在する。

 様々な世界は様々な想いが寄り集まって形作られ、いくつかの想いは様々な形で重なることになる。

 星の数ほども存在するそれらの世界は、時として衝突し、時として滅びていった。

 そしてそんな数多存在する幾千幾万の世界を「管理」し、平和を守る者達が存在した。

 彼らは時に言葉を、時に武力を用いて世界を守る…………「次元世界」を、守護する者達。

 

 

 ―――――彼らの名を、「時空管理局」と言う。

 これは、そんな彼らが守った先の世界の物語――――。

 

 





最後までお読みいただきありがとうございます、竜華零です。
と言うわけで、ネクストジェネレーションなエピローグ的お話でした、僅かながらViVidの要素を含んでおります、ヴィヴィオさんはViVidとは違うルートに入っている模様ですが。
そして代わりに、いろいろ想像できてしまう子が主役的位置に入っていました、何故だ。


偽予告的に言えば、「魔法少女リリカルなのはViVid」改め「魔法少女リリカルアスト」、始まります的な感じで。

主人公はアスト、現代の犯罪者をバッタバッタと薙ぎ倒す。
強大なシンジケートとの戦いの最中、アストのピンチに現れるのは仮面の戦士KURONO!
(「クロノ君、何やってるの?」「い、いや、僕が顔を晒すと不味いから……」)
兄貴分と姉貴分、カレルとリエラと一緒になって、旧六課の遺産と才能を受け継いだ少女が次元世界を行く……!
(「私もパパみたいに縛るんやー!」「アスト? ちょっとこっち来よかー?」「あ、ママ」)


……そんな、意味不明な夢を見ました。
次回は少し間が空きますが、14日にバレンタイン話を出して締めにしたいと思います。

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