魔法少女リリカルなのは―流水の魔導師―   作:竜華零

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StS編第5話:「査察官、捜査する」

 

 ――――正直な所、妙な期待を抱いていたのは事実だ。

 ティアナはそんなことを思いながら、異世界の空で夕食を取っていた。

 部隊長自らが腕を振るった鉄板焼き……正直、恐縮の余り味が良くわからない。

 

 

「ティア、どしたの?」

「別に、何でも無いわよ」

 

 

 隣のパートナーに適当な応答をしつつ、ティアナは改めて回りを見る。

 そこには、機動六課の主力メンバーの大多数が集結していた。

 場所は湖畔のコテージ、夕食時だけあって空模様は夕方から夜へと変化しつつある。

 外でのバーベキュー、まるで学生旅行か何かだ。

 

 

 しかしこれはれっきとした機動六課の任務である、第97管理外世界「海鳴市」への派遣任務だ。

 内容は『レリック』の可能性もあるロストロギアの確保、現地協力者の所有物だ。

 なのはやはやてと談笑している2人がそうで、名前はアリサ・バニングスと月村すずかと言うらしい。

 

 

「でも、皆本当に御無沙汰よね。最近は携帯しか話してなかったし」

「にゃはは、ごめんね?」

「ううん、良いよ。なのはちゃん達も忙しそうだし」

「うーん、やっぱすずかちゃんは優しいなぁ」

「それって、私は優しくないってことかしら……?」

 

 

 ……こうして見ていれば、隊長達も普通の女子に見えるから不思議だ。

 視線を転じれば、なのはの姉である高町美由希やフェイトの義姉であるエイミィ・ハラオウンがフェイトと何事か話しているのが見えるし、エリオとキャロがアルフと言うフェイトの使い魔と喋っているのが見える。

 

 

「うん、お母さん達も元気だよー。差し入れ持ってきたから、デザートで食べてね」

「ありがとうございます、美由希さん。エイミィ、カレルとリエラは……?」

「今日はお義母さんに預かって貰ってるよ、アルフも手伝ってくれるから本当助かるんだ~」

 

 

 こちらも、フェイトが普通に年下扱いされているのが不思議で仕方が無い。

 

 

「エリオ、ちょぉっと背ぇ伸びた?」

「あ、はい。少しだけ……」

「エリオ君ズルいんです、自分ばっかり背が伸びて」

「まぁ、男の子だからねぇ」

 

 

 ……こう言うのも、カルチャーショックと言うのだろうか。

 出来れば見たく無かったと言うか、ティアナとしては本気で意味がわからない。

 大体にして、魔法文明皆無なこの第97管理外世界から、どうやればなのはやはやてのようなオーバーSランク魔導師が輩出されるのであろうか?

 

 

 はやて自身は「突然変異」などと言っていたが、そんな突然変異があって良いのだろうか?

 失礼とは承知で言わせてもらえれば、非常識極まりない。

 子供の頃の偶然で魔法に出会い、するとたまたま巨大な才能を秘めていて、メキメキと頭角を現して……いくらなんでも、出来過ぎな話だと思う。

 

 

「ティア、来て良かったね!」

 

 

 だと言うのに、隣のパートナーは鉄板焼きを美味しそうに食べながら呑気にそんなことを言っている。

 何と言うか、隊長達の一挙手一投足を気にしている自分が馬鹿のように思えてくる。

 

 

「良かったって、何がよ」

「何って、ほら、なのはさんの家族の人にも会えたし」

「そりゃアンタは嬉しいでしょうよ……」

 

 

 幼い頃から憧れていたなのはの実家がやっている、翠屋と言う喫茶店を訪問したのである。

 趣味の良い店でケーキも美味しかっただろう、しかしティアナはケーキの味など覚えていない。

 上官の父母にあって緊張しない方がおかしい、よって正しいのは自分だとティアナは思う。

 

 

「それに、キャロもちょっと元気出たみたいだし」

「……そうね」

 

 

 今、エリオとアルフに囲まれながらフリードを抱いているキャロを見て、そこだけはティアナも同意した。

 確かに、昨日の昼休みを過ぎたあたりから……キャロは、妙にすっきりした顔をしていた。

 理由は良く分からない、ただ、雰囲気が上向いたことだけは確かだった。

 

 

「まぁ、ええ感じ、かな」

 

 

 そして、それは当然のことながら他の面々にも伝わっている。

 一旦すずか達から離れたはやては、さりげなくキャロの背中を見つめながらそんなことを呟く。

 追加の鉄板焼き――エリオとスバルが良く食べる――を作るべくエプロンを身に着けて。

 

 

「はやてちゃん、手伝いましょうか?」

「ん? それなら私ひたすら焼くから、シャマルは野菜とかどんどん切ってってくれる?」

「はい、わかりました」

「リインもお手伝いしますですぅ!」

「はは、ありがとな」

 

 

 子供フォームで駆けて来たリインに笑みを見せて、はやては熱く熱した鉄板の上に材料を乗せて行く。

 そして水切り場で包丁を握ったシャマルの所に、心配なのかシグナムとヴィータが近付いて行くのを視界に入れつつ……彼女は、次元の彼方を見るように空を見上げる。

 

 

「さて、私らがミッドを離れて鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 

 動くか――――動かないか。

 表面化するのか、水面下での物になるのか。

 それとも、何も動かないのか。

 そのいずれかで、機動六課の今後の動きが少し変わって来るかもしれない。

 

 

(まぁ、とりあえずはギンガと…………イオスさんの調査待ち、やね)

 

 

 そんなことを考え、そしてその場の機動六課のメンバーを見渡して……目を細める。

 しかしそれはすぐに人当たりの良い明るい笑顔に変わり、次いで鉄板焼きの良い香りがあたりに漂い始めるのだった。

 ……未だに名前で呼んでくれない、そんな誰かのことを考えながら。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「……あそこか」

 

 

 ミッドチルダ極東の群島地域、その中で一番大きな島の、それでも舗装された道すら無いそんな場所にイオスはいた。

 いつもの制服とは異なる薄手の黒のラフパーカーとデニムのパンツスタイル、どうやら片手に持ったメタリックな双眼鏡で眼下の様子を見下ろしているようだ。

 彼の視線の少し先には、数千人規模の人々が暮らしているだろう町がある。

 

 

 彼は今、町を一望できる小高い丘の上に陣取っている。

 扉の無い四輪駆動車(ジープ)のような自動車(モーターモービル)、その運転席から片足を乗車用の足場に乗せるような姿勢で身を乗り出し双眼鏡を覗いている形だ。

 黒基調の車の車高は高く、オフロード用のタイヤの大きさと相まって1メートルはあるだろうか。

 ちなみに彼の私用車では無い、れっきとした管理局の公用車である。

 

 

「えーっと、あと2キロって所かね」

 

 

 そう呟いて双眼鏡を座席の下のボードに放り込むと、水色の瞳が渇いた風に晒されるのを嫌うかのように細められた。

 車体と同じ色合いの助手席の上に放られていたサングラスを取り、目を守るようにかける。

 それから左のシフトレバーを引いてギアを入れ、アクセルを踏んで車を走らせる。

 腰の位置をやや気にしているのは、すでに数時間この固い座席に付き合っているからだろう。

 

 

「六課の車は柔らか座席だってのによー、陸士は辛いなオイ」

 

 

 俺は陸士ではねーけどな、と呟きつつそんなことを言うイオス。

 この車はこの群島で唯一の陸士部隊の駐屯地から借りてきた物だ、辺境地の部隊の物だけあって型が30年は古い。

 ピックアップタイプの小さな荷台に、妙な音がボンネットから響く使いこまれた内燃機関(エンジン)

 ちなみに2人乗り、六課の公用車に比べて「オンボロ」と言わざるを得ない。

 

 

 ガガガガ……と砂利道を進みながら、イオスは改めて窓――と言うか、ドアが無いタイプだが――の外を見やる。

 その先にはさっき確認した町がまだ見えている、もういくらかで到着するだろう。

 今日はある目的で転送ポートのある島の駐屯地に行き、車で移動を重ねているのである。

 

 

「施設の方じゃ、イマイチ有力な情報は得られなかったからな……」

 

 

 町に到着するまでの間、車を運転しながらイオスは思い返していた。

 それは、つい数時間前に聞いた話の数々。

 局から流出してガジェットの内燃機関に流用されていた『ジュエルシード』、その貸し出し先のでの調査のことを……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 『ジュエルシード』の貸し出しに関する情報は、一級指定古代遺失物に関することだけに最高レベルでの機密指定が成されていた。

 当然と言えば当然だ、だが査察官権限によって貸し出し先の情報は得ることが出来た。

 それがミッド極東群島地域に所在する、次元航行エネルギー駆動炉研究所施設「レルネー」である。

 

 

「新暦39年の駆動炉実験の失敗以降、高エネルギー型の次元航行エンジンは廃れましてなぁ。今ではここのように、辺境で細々と食いつないで研究を続けている次第です……なので、中央の役職持ちの方のもてなし方など心得ておりませんで。申し訳ないが、ご容赦頂きたい」

「構いませんよ、押し掛けたのはこちらですから」

 

 

 長々と、それでいて細々とした小さな声で話す「レルネー」の所長にそう答えながら、イオスは案内されている研究施設の通路を歩いていた。

 研究施設の通路と言っても、元は白かっただろう壁や床は黄ばんでいて罅割れてもいる。

 随分と年季の入っている研究所だ、とても……。

 

 

(とても、『ジュエルシード』のような貴重なロストロギアを貸し出されるような場所とは思えない)

 

 

 所員は所長を含めて僅か8名、高エネルギー駆動炉の研究所と名はついているが実験炉は20年以上前の古い型の物が一基あるだけ、局系列とは言え振り向けられる予算は人件費と施設の維持で精一杯。

 正直に言って研究の主流から外れた、いつか消えてなくなるような小さな研究施設だ。

 

 

「……『ジュエルシード』は、駆動炉の研究のために貸し出し申請を行ったのですか?」

 

 

 髪なのか眉なのか髭なのか、いやその全部なのか、顔中を白の毛で覆ったような所長。

 随分と高齢のように見える小柄な老人だが、着ている衣服は研究者らしい白衣だった。

 彼は、イオスの質問に頷くと。

 

 

「はい、それはもう。『ジュエルシード』のような次元干渉型の結晶を解析できれば、駆動炉の開発に役立てられると聞きましてな。もしそれを基に駆動炉の開発が出来れば、現行のような魔力炉型の次元航行エンジンに比べエネルギー効率が、小型化の目処も……」

「ああ、なるほど。それは確かに……ちなみに」

 

 

 専門的な話になりかけたので、一度ぶつりと話を切って。

 

 

「どなたから、『ジュエルシード』が研究に役立つと持ちかけられたのです?」

「さぁ、どうでしたかなぁ……もう3年も前のことですからの、細かい担当者の名前までは覚えとりませんわ。ただ、本部の方だったかと思いますがの」

「本部と言うと、地上の?」

「ええ、まぁ……まさかあんなことになって、研究どころではなくなってしまいましたがの」

 

 

 深々と溜息を吐いて、老齢の所長はひょこひょことした足取りでイオスを案内する。

 その背中を見つめながら、イオスは査察官としていろいろな可能性を考えてもいた。

 所長の言動と研究所の現状、そして所長自身をも含めた所員の資産の動きに関する情報まで調べた結果、横流ししたと言う証拠は出て来ていなかった。

 

 

 そうなると、ここの人間達は単に研究のために『ジュエルシード』を必要としたのか。

 定石通りに考えるなら、『ジュエルシード』を流出させたい誰かがこの施設を利用したことになる。

 しかし、それで誰が得をするのかが問題だ。

 どんな事件であれ、最も得をする人間を疑うのが定石だが……この件については、見えないでいた。

 何しろ最終地点がガジェットの動力源なのだ、何がどう動いたのかさっぱりである。

 

 

「ここですじゃ、我が研究所の保管庫は」

「ここ、ですか……」

 

 

 案内されたのは、旧式の研究所にしては立派な作りの保管庫だ。

 本局や本部のそれとは比較のしようも無いが、銀行の金庫のような分厚い金属扉で隔てられたそこはまさに「鉄壁」の名が相応しく思える。

 表示枠を開いて調べて見れば、5重ロックの厳重な電子ロックが施されている。

 旧式だが、局でも採用されているタイプだ。

 

 

「ここから、一晩で消えたと?」

「そうなのですじゃ、担当の者が朝に戻って確認した時には……すでにもう」

「なるほど……」

 

 

 24時間、人間が監視していたわけでは無いわけだ。

 それならば、それなりの知識を持った者であればロックを開けて――この時点でかなりの凄腕だが――出ることは、まぁ可能であろうと思う。

 

 

「他に、当時の状況について何か?」

「そうですなぁ……不思議があるとすれば、保管庫の電子ロックもそうですが、何と言うか、開けた形跡が無かったこと、くらいですかの」

「……は?」

 

 

 思い出すように白い眉を動かしながら唸る所長の言葉に、イオスは間抜けな声を上げた。

 要するに、保管庫を開けられた痕跡そのものが無かったと言うことだろうか。

 扉を開けずに、旧式とは言え管理局の技術で守られた『ジュエルシード』を盗んだと。

 

 

「どう言うことです?」

「はぁ、当時の担当者が普通に開けて閉めた、と言うデータが残っておったんですわ」

「……それは、その担当者が盗んだのでは?」

「我々も最初はそう思ったんですがのぉ、ただその担当者は私を含めた所員と一緒に研究進展の前祝いの席におったんですわ、担当者のIDがデータに示される時間には」

 

 

 ……いよいよもって、わからない。

 ただ、どうもキナ臭い話になりつつあるのはわかった。

 

 

「……その研究員は、今どこに?」

「3年前に責任をとって辞めましてな……そんな顔をなさらんでも、今どこにおるかはわかっとりますでな、ええと……確か故郷の町に戻ったはずで……」

 

 

 そうしてその担当者の居場所を聞いたイオスは、その足を所長の告げた町へと向けたのだった。

 そして、そこから数時間の時が流れて――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――噎せ返るような澱んだ空気に、イオスはしかし表情を変えることは無かった。

 高台から見下ろしていた町に入り、適当に車を停めて十数分。

 イオスは、その町でも有数の大きさの酒場に来ていた。

 

 

「…………さて」

 

 

 時刻は夕方になるかならないかくらいだ、しかし酒場はすでにガヤガヤと賑わいを見せている。

 ミッド極東人特有の浅黒い肌と黒髪を持つ男女が――男の方が多いが――天井から吊るされている肉やハムが目の前で揺れるカウンターや、広めの店内にいくつもある丸テーブルに座って乾杯している。

 基本的に木造、カウンターの中でグラスを磨いているマスターらしき人間がイオスを見たが、すぐにその視線は逸らされた。

 

 

 そんな店内を入り口付近からぐるりと見渡した後、イオスは中へ向かって歩き出した。

 流石に入り口で突っ立っていれば目立つ、しかし誰も見るからに余所者のイオスに注意を払う人間はいない様子だった。

 ……いや、1人いた。

 

 

「うふふ、若い人。この町は初めて?」

 

 

 人の少ないカウンターに座った時、しなり、と、女がイオスの右隣の席に座って来た。

 別に気付かなかったわけでは無い、ただ気配と足音で素人と思って放っておいただけだ。

 波打つような黒髪の、20代後半くらいの女だろうか。

 

 

「……ああ、観光でね」

「観光? こんな何も無い町に?」

「人探しついで、さ」

 

 

 酒場(バー)のマナーを守ってでもいるのか、女は直接触れて来るようなことはしない。

 ただ、胸元と背中が大胆に開いた黒のワンピースドレスは非常に扇情的で、角度によっては肌が覗き見えてしまいそうだ。

 すい……と、マスターがイオスの前に立つ。

 

 

「……何に致しましょうか」

「そうだな……車なんでね、ソフトドリンクで」

「畏まりました」

 

 

 注文した飲み物が来るまでは、イオスは何も話さなかった。

 女の方はと言えば、カウンターに肘をついて妖艶に笑みながらイオスの横顔を見つめている。

 ……ほどなく、イオスの前に透明感のある飲み物が置かれた。

 少しの間手の中でグラスを揺らし、ぐ……と口をつけると、爽快感のある炭酸の味が口の中に広がった。

 

 

「……人探し、って?」

 

 

 そこまで待ってから、女が再び声をかけてきた。

 イオスは手の中のグラスの冷たさを感じながら、女を見ることも無く。

 

 

「ちょっとした知り合いを探していてね、この店に良く来るらしいんだが」

「そうなの……私、常連だから大体のお客さんはわかるわよ。ねぇ、マスター?」

 

 

 マスターが無言の視線を投げ、そしてやはり一瞬で視線を手元のグラスへと向ける。

 その間に、イオスは二口目を口に含んでいる。

 彼は二口目を飲み干すと、マスターに改めて視線を向けて。

 

 

「スプモーニを……彼女に」

「畏まりました」

 

 

 オレンジ色の柑橘系飲料が女の前に置かれる、女はマニュキアを塗った赤い指先でグラスを撫でた後、手に取ったグラスを掲げて見せてから中身を口に含んだ。

 乾杯は無い、雰囲気がそれを拒否していた。

 イオス自身も三口目を喉に流し込みつつ、やはり視線を向けないままに話を続ける。

 

 

「協力してくれる?」

「ええ、貴方、良い男だもの」

「そりゃどーも」

「うふふ……」

 

 

 周囲のガヤガヤと騒がしい賑わいとは別の空気が、イオスと女の間に流れている。

 女はカウンターに身をやや倒しながら、興味深そうにイオスを見つめて。

 

 

「……貴方みたいな人、普通はこんなお店に来ないわよ?」

「だろうね、実は俺も初めて来る」

「初めて?」

「ああ、だから実は作法がまったくわからず困っている。どうしたら良いんだ、こう言う場合?」

 

 

 意外そうに目を瞬かせた女がしげしげとイオスの顔を眺める、なるほど、確かにイオスは店に入ってから二コリともしていない。

 ぷっ、と、女は噴き出すように笑った。

 マスターが睨むように視線を向けるが、気にもせずにクスクスと笑い続ける。

 

 

「……そんなに笑わなくても良いだろ」

「ふふふっ……ごめんなさいね、良い(カモ)だと思ったらまさか坊やだったなんて。ああ、おかしい」

「…………」

 

 

 表情を変えないまま、イオスは面白くなさそうに飲み物をぐっと大量に口に含んで飲み下した。

 それがまたおかしいのか可愛らしいのか、女はクスクスと笑う。

 と、そこで雰囲気がガラリと変わって。

 

 

「それで、坊やは誰を探して慣れないお店に来たの?」

「…………ラールって男を探してる」

「ラール……ああ、ラールね」

「知ってるのか?」

「ええ……でも、つまんない男の話なんて置いておいて。そうね……今夜、どうかしら?」

 

 

 つ……指先と言うより、爪先で微かに手の甲を突かれて、イオスはぱっと降参するように両手を上げて。

 

 

「え、遠慮しておく!」

「あら、そ。じゃあしょうが無いわね、もっと良い男になってからまた来て頂戴。ラールは……ああ、あそこよ、一番隅で寂しそうに飲んでる人、ツケだけどね」

「ありがとう、恩に着るよ」

「え? あ、ちょ……」

 

 

 カウンターに酒の代金を置いて――女に奢った分だ――イオスは飲み物を飲み干すと、席を立った。

 そのまま女に背を向けて歩き、酒場を横切るように隅へ。

 ヒラヒラと人をかわして、そして1人で隅で飲んでいる男の背に近付くと……肩に手を置いて。

 

 

「よ、兄ちゃん――――ちょっと、奢らせてくれよ」

 

 

 初めて笑って、そう言った。

 肩を叩かれてそんなことを言われた男は、怪訝そうな顔でイオスを見ていた――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ……その部屋には、光が無かった。

 壁に貼られた「照明節約」と言う張り紙が妙に寂しい雰囲気を発する中、古ぼけた図面の束や数字のグラフが張られた透明なボードなどに埋もれるようにして、白い毛が顔を覆った男が固定通信機の前で何事かを話していた。

 

 

「そう、そうなのです、査察部の人間が訪れて来ましてな。例のロストロギアの流出の件について調べているようで……」

 

 

 通信の相手は誰だかわからない、かなり古い型の通信機なのか画像が極めて不鮮明だった。

 ただ女性のようで、乱れた画像の中で微かに髪の色を金か茶だと伝えている。

 眼鏡をかけた、片目の上に髪を流すような髪型の女性。

 画面の中、女性の唇が何かの言葉を紡いでいく。

 

 

「……わかりました、ええ、ええ……いえいえ、中将閣下と三佐殿にご迷惑がかかるようなことは……」

 

 

 時に慌てて、時に従順に、時にゴマを擦って、宥め空かすように話す。

 まるで、目の前にあるチャンスを逃すまいと必死になっているように見える。

 そこにあるのは探究心に燃える研究者の姿ではなく、単なる落ちぶれた、利権屋の姿だ。

 

 

 しかしこんな彼も、30年以上前には野心に燃える正統派の研究者だったのである。

 それが今、辺境に押し込められ細々と研究を続ける始末。

 研究の成果も絶えて久しく、もはや新たな発見もあるまい。

 

 

「……『ヒュードラ』の失敗以降、十数年も地方で燻っていた我々を集めてくださったご恩は、必ず……」

 

 

 ……新暦39年の、次元航行エネルギー駆動炉実験の失敗。

 彼の挫折は、ある女性の挫折と共にあったのである。

 しかし、それもまた遥かな過去の話であった――――。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ラール・フランニツキは、3年前に「レルネー」を解雇された50代前半の男だ。

 元々はミッドの有名な大学院を出て、新たな次元航行エンジンの研究に取り組んでいたバリバリの研究者だったのだが……最初の大規模実験に失敗して以降30年、地方を転々としながら食い繋いできた。

 しかしそれも、3年前の解雇で途絶えてしまったが。

 

 

「はぁん、そいつは大変だったなぁ」

「そうなんだよ、あの爺、俺一人に責任取らせやがって……」

 

 

 何杯目かの黒ビールのジョッキを煽りながら、ラールが恨み言を呟く。

 目は完全に据わっていて顔も赤い、かなり酔いが回っていることがわかる。

 彼とイオスの座るテーブルには空の大ジョッキが並んでいるが、全てラールが飲み干した物だ。

 

 

 ラールは最初はイオスを警戒していたようだが、元々酔っていたことと奢りの酒、そしてイオスが自分に共感するような言動をしていることに気を良くしたのか、今ではベラベラと口が軽い。

 どうやら、酔うと口が軽くなるタチのようだ。

 イオスは笑みを浮かべながら、しかし自分はビールに口をつけずに。

 

 

「それで、当日の朝に職場に行ったらなくなってた?」

「そうなんだよ、飲みに行った次の日だから良く覚えてる。研究資金が出るってんで良い気分だったからよぉ、でもな、朝に保管庫開けたらブツが無かったんだよ! しかも飲みに行ってる時間に俺のIDで誰かが開けてたって記録もあるのによ……ってのに、あの爺!」

「なるほどなぁ、それにしても、何でアンタのIDが記録されてたんだろうな?」

「んなの、知るかよ! 畜生が……前の日にIDカード無くしちまって、それからは何もしてねーのによ」

 

 

 思い出して腹が立ったのか、グビグビとビールを乱雑に煽るラール。

 それを見つめながら、イオスは内心で考えを巡らせる。

 

 

(所長の話とは矛盾しない……って言うか、ほぼ同じか)

 

 

 正直、落胆を禁じ得ない。

 別に酒代は査察部の経費で落ちるので構わないが、労力と時間はかかった。

 まぁしかし、情報のダブルチェックは出来たと考えるべきか。

 

 

 今の所、イオスには目の前の男を疑う気持ちは無い。

 ロストロギアの横流しに関わった人間にしては不自然な点が多すぎるし、何より杜撰だ。

 いずれにせよ、これ以上の情報は得られないかもしれない。

 

 

「ああ、そういやぁ……あの時も、前の晩にこうして酒を奢ってもらったっけなぁ」

「あの時って、事件の前日か?」

「ああ、2日連続で良い酒が飲めるってんで俺ぁ嬉しくて……そうそう、お前みたいに急に声かけてきたんだ。ただまぁ、お前さんと違って美人だったけどな」

 

 

 美人……女、だろうか。

 確認を重ねると、ラールはそうだと頷いて。

 

 

「眼鏡の……変な女だったな、茶髪のおさげで。まぁ、何話したかは覚えてねーけどな。気付いたら1人だったし……」

「なるほど、逆ナンとはやるね」

「ははっ、わかってんじゃねーか」

 

 

 気分良く笑うラール、酒量もどんどん上がる。

 しかし流石に20分後には――その間はもう意味の無いことしか言っていなかったが――限界を迎えたのか、倒れるようにしてテーブルに突っ伏して眠ってしまった。

 いびきをかきながら潰れた男の頭を見つめつつ、イオスは呟く。

 

 

「女……?」

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 店へ少し多めに代金を支払い、ラールの世話も任せて――店を出る際、また最初の女がちょっかいをかけてきたが――外に出た時、あたりはすでに夜だった。

 ポケットから取り出した車のキーを指先でクルクルと回しながら、イオスは今日集めた情報を頭の中で整理していた。

 

 

 小さな街灯に照らされた砂利道の通りは暗く、人通りもそう多くは無い。

 来ただけの意味はあった、とは思う。

 いくつか情報も得ることができ……最後のラールの証言はやや微妙だが。

 

 

「……茶髪のおさげの女、しかも美人、ねぇ……」

 

 

 それだけでは何とも言えない、無関係である可能性も否定はできない。

 それでも、頭の片隅に置いておいても良い情報だろう。

 店から少し離れた位置にある公共のパーキングに辿り着くまでには、イオスはある程度の考えを纏めていた。

 まぁ、パーキングとはいっても使用者はイオスくらいの物だが。

 

 

「あん……?」

 

 

 しかし、一台しか止まっていないパーキングには先客がいた。

 何と言うか、やけに光物系の衣服を身に着けた若い男が2人、イオスの(公用車だが)車の周りにタムロしていたのである。

 その男達はイオスに気が付くと、「らしい」笑みを浮かべながら吸っていた煙草を投げ捨てて。

 

 

「兄ちゃん、この車のオーナーかい?」

「えらく羽振りが良いじゃねーか、おーおー」

 

 

 などと言いながら近付いてきた、最もイオスも普通に歩いて近付いていたが。

 今さら地方のゴロツキ如き、恐れる理由は無い。

 ただ公務執行妨害で逮捕する気も無い、足がつくし、そもそも逮捕する程のことでもあるまい。

 

 

 だから、ちょっとした歩法で男達の脇を擦り抜けた。

 男達がイオスの姿を見失って目を剥いた、イオス自身は一歩と一歩の間に歩速を変え、擦り抜けただけだ。

 認識のズレを利用した、いわば「びっくり」技である。

 まぁ、彼の師匠や友人の多くには通用しないが。

 

 

「な、お……おお?」

「んな……っ」

 

 

 驚く男達の後ろ、つまりさっさと車に乗り込んだイオスが「あー、やれやれ」と言いながらキーを差し込んでいた。

 男達のことなど気にも留めていない、それが男達をさらに刺激することになった。

 顔を真っ赤にして、自分達を「おちょくって」くれたイオスの方を向き、何らかの報復を与えようとした所で――――。

 

 

 

「はいど――――んっス!!」

 

 

 

 ――――意外なことに、第三者の介入があった。

 これはイオスにとっても予想外のことで、車のエンジンを入れた所で目を丸くして固まっていた。

 何が起きたのか、それは、目の前にいた男2人が派手にぶっ飛んだと言うしかない。

 茶色い外套を纏った小柄な人影が、ローラーボードのような物で男の頭のあたりを轢いたために。

 

 

 外套の人物は大きな音を立ててボードの面を横に立てながら着地、減速しつつ後ろを振り向いた。

 男の1人は伸びてしまったのか、軽く唸りながら気を失っていて……その下敷きになっていたもう1人は、ローラーボードの着地の音でビクリと身体を震わせた。

 突然の展開にすっかり萎縮している様子で、ある意味ではイオスも警戒心を抱いていた。

 

 

「だぁめっスよーお兄さん達、そんな弱い者苛めみたいなことしちゃー……って、あれ、行っちゃったっスねー」

 

 

 額のあたりに片手を添えて、遠くを見るような仕草をする。

 実際、無事だった男が気絶した男を引き摺りながら逃げていってしまった。

 足の下でボードを踏みながら、外套の人物がイオスを見る。

 車のエンジン音だけが、2人の間に鳴り響いていた。

 

 

 沈黙が続き、しばし見詰め合うような形になる。

 フードで隠されていた顔は、今は車のライトで照らされて少し見える。

 眩しそうに「うお~っス」と言われたので、イオスはライトを切った。

 ただその際、赤に近い濃いピンクの髪と、ライトの明るさに細められた同色の瞳が印象に残った。

 

 

「おお、どうもっス。お兄さん優しいっスね」

「いや、まぁ、何か助けられたっぽいしな」

「ははは、もっとお礼を言ってくれてもいっスよ~」

 

 

 声からして、若い女……少女の声だった。

 それもかなり軽い調子の少女だろう、印象としてイオスはそう受け取った。

 

 

「……おっと、じゃあ私もう行かないといけないっスから。色男のお兄さん、気をつけて帰るっスよ~」

 

 

 何かを思い出したらしく、外套の少女がそのままボードに乗って走り去ってしまった。

 呼び止めようかとも思ったが、その後どうするのかにアイデアがあるわけでもなく、結果として姿を見失ってしまった。

 1人残されて、車の中でイオスは困ったように頭を掻いた。

 

 

「……色男……?」

 

 

 ただ、そこだけは意味がわからなかったが。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 少女は鼻歌を歌いながら、市販のボードに片足を乗せる形で砂利道を進んでいた。

 周囲に何故か人通りは無く、外套を風に揺らしながら先へとボードを走らせる。

 そして、一本だけ明かりの灯っている街灯の下で止まる。

 

 

「……どうだった?」

 

 

 そこには、少女と同じ外套を羽織ったもう1人がいた。

 声からしてこちらも少女、声に労わるような色があることから、もしかしたらやや上の立場なのかもしれない。

 明かりの下、フードの間からは水色の髪が覗いている。

 

 

「そっスね、ドクターが言ってた通りのお兄さんだったっス。歩き方とか凄そうで、しかも色男で」

「色男ぉ? またアンタは良くわかんないこと言って……それより、ドクターが言ってた『鎖』は?」

「あ、それは見てないっス」

「おいおい……ま、今回はそっちサブだし、しょーが無いか」

 

 

 行くよ、と告げた相手に「はーいっス」と答えて、少女は再びボードに乗って地面を蹴り始めた。

 最初の一蹴りの走りの中、フードを取って後ろを見る。

 すると、赤に近いピンク系の髪を頭の後ろで留めた少女の顔が露になる。

 猫が笑むように細めた赤い瞳を闇の中に沈めて――――消えた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 行きに通った道を車で走りながら、イオスは通信用の表示枠を開いていた。

 夜7時を過ぎているが、陸士部隊であればまだ仕事をしている時間だ。

 通信相手は、陸士108部隊のギンガ。

 

 

「……と言うわけで、俺はもう2日程こっちで調査をしてみるよ。関係者は一通り洗ったから、後は組織的な流出だったのかどうかの痕跡を探すことにするさ」

『わかりました。こちらも、もう少し密輸のルートについて調査を進めてみます』

「頼む……六課の連中は?」

『第97管理外世界での任務を無事に終えて、明日には戻るそうです。フェイト執務官からそのような連絡がありました』

 

 

 明日か、と口の中で呟いて、イオスは車のライト以外に明かりの無い道を見つめる。

 砂利や石の転がる悪路を、局の公用車で進む。

 しかしどこまでも続きそうなその道に、つい溜息を吐いてしまう。

 

 

「やれやれ、ここからまた数時間運転だよ。明日は身体の節々が痛そうだなオイ」

『ふふ、お疲れ様です。でも……あの、イオス一尉?』

「何だい、ギンガさん」

 

 

 急に表示枠の中で言いにくそうに言葉を濁した彼女は、なんと言うか、八の字に眉を寄せて困っていた。

 本当に困ったような、それでいて照れているような笑みを浮かべて言った。

 彼女は、ちょん、と自分の右頬を指先で軽く突ついて見せて。

 

 

『あの……キスマーク、ついてますよ』

「は? え……ええっ、マジか!?」

『は、はい……』

 

 

 ギンガの言葉に慌てて右手の甲で右頬を擦れば、表示枠の明かりに照らされるそこには確かに赤いルージュがこびり付いていた。

 あの時だ、店を出る時、あの女性に最後にちょっかいを出された時。

 確かに、右頬に湿っぽい何かを感じて「良い男になったらまた来てね」と。

 

 

(色男って、そう言うことか……!)

 

 

 先程、自分を助けて(?)くれた少女らしき人物の言葉の意味がようやくわかった。

 と言うか、店を出てから今までずっとキスマークを頬につけて歩いていたのか。

 少ないとはいえ人通りはあった、今考えるとぞっと……。

 

 

 ……そこでイオスは、ふと表示枠の中のギンガと目が合った。

 車の運転音が、嫌に良く響いていた。

 ガタンッ、と石にでも乗り上げたのか、車が跳ねた。

 そして画面の中のギンガがイオスから目を逸らした、若干だが頬が赤い。

 

 

『そ、それでは……』

「え、あ、ちょっ、ま…………ってくれると、嬉しかったなぁ~」

 

 

 通信が切れた表示枠に視線を向けて、イオスは心の中で項垂れた。

 別に悪い事は何もしていないはずなのに、酷い裏切りを働いたような気分になった。

 何故かは、美人慣れはしていても女性慣れはしていないイオスにはわからなかった。

 

 

 その時、通信がかかってきた。

 ギンガかと思って見たが、違った、今度の相手は男だったからだ。

 表示されている名前に、イオスは微妙な顔を浮かべる。

 しかし無視はできない相手なので、通信に出る。

 

 

『おや? どうしたんだいイオス君、まるで僕がお呼びじゃなかったみたいな顔をして』

「……別に、そう言うわけでも無いんだが……」

『それと頬の口紅は早く取った方が良いね、女性に誤解されるよ?』

「ほっとけ!」

 

 

 すでに誤解されたので、その忠告は遅きに失していた。

 ちなみに相手は緑髪の白スーツの男性、つまりはヴェロッサである。

 

 

「で、何の用だよ。今、俺運転中なんだけど」

『ああ、そうなのかい。いや、大した話じゃないんだ。ちょっと僕の仕事を手伝って欲しくてね……そんな顔をしないでくれよ、これは今のキミの仕事にも関係あるかもしれない話なんだから』

「俺の?」

 

 

 別に今さら自分の仕事を把握されていても驚きはしない、ヴェロッサくらい優秀ならそれくらいわかるだろう。

 表示枠の中で、白スーツ姿の若い男がにこやかな笑みを浮かべている。

 むしろ、相変わらずの胡散臭そうな笑みに疑いを持ってしまうのは経験だろうか。

 ヴェロッサは笑んだまま、考えの読めない瞳をイオスに向けると。

 

 

『とりあえずイオス君、来週暇かい?』

「暇なわけねぇだろ」

 

 

 現在進行形で暇では無い、見てわかれとでも言うようなイオスの声にヴェロッサがクスクスと笑う。

 彼はそのまま手元で何かを操作して、次の瞬間には『テミス』にデータを送って来た。

 いくつかのデータと文書に……画像。

 どこかで見た覚えのある高層の建造物……それをイオスは知っていた、何故なら。

 

 

『――――ホテル・アグスタ。知っているかい?』

 

 

 そこは、彼の後輩の晴れ舞台なのだから。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――そこは、極寒の空間だった。

 吐いた息は白く染まり、吸い込む空気は肺を冷え切らせる程に冷たい。

 普通の人間であれば凍えてしまうだろう絶対零度の封印空間、そこに2人の……2匹の猫がいた。

 

 

 頭の上の猫の耳を畳み、腰下から伸びる尻尾は丸めて身に当てるようにしている。

 氷の椅子に座り、片膝を抱えるようにしながら目を伏せて待っている。

 何を待っているのか、2匹の猫はその空間で最も大きな氷の柱を互いの背で挟むように座している。

 凍えるような空間で、自らの身を薄く魔力の膜で覆うようにしながら――――まるで守るように。

 

 

 茶色い装丁の本を覆う氷の棺を守るように、彼女達は座していた。

 何のために?

 それは、報いるために。

 

 

 自らに課した報い故に、彼女達は極寒の空間で待ち続ける。

 何のために?

 それは、盟約のために。

 

 

 彼女達の犯した罪科のために人生を狂わされた少女との約定のために、座して待つ。

 想定される、「その時」に備えて。

 少女と……愛すべき弟子達と、友人のために。

 

 

 2匹の猫は、白銀の世界で座し続ける――――。

 

 


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