魔法少女リリカルなのは―流水の魔導師―   作:竜華零

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オリジナル設定描写があります、苦手な方々はご注意ください。


士官学校編③:「新暦58年4月1日~6月1日」

 正直な所、最初は「気に入らない」と思った。

 将来の幹部候補生を育てる学舎、士官養成学校ミッドチルダ本校。

 卒業生は出世を約束され、まさにエリートとしての人生を歩むことになる場所だ。

 

 

 その士官学校に、エイミィ・リミエッタと言う名のその少女は若干9歳で入学を許された。

 10代前半で入学できれば最優秀グループと言われる士官学校、その中で2桁を下回る年齢で入学したエイミィは言うまでも無く最優秀中の最優秀と言える。

 士官学校始まって以来の快挙、歴史に名を刻まれても不思議は無い……はずだった。

 

 

「おい、あれ……」

「ああ、7歳だって? 俺より7つも年下で同期かよ……」

「あれで首席と2位入学って、何か怪しいわよね……」

 

 

 入学式が終わって一時間後、最初の訓練のために陸戦想定のグラウンドに集合した生徒達。

 その視線は、1桁の年齢で入学した異例の存在に向けられている。

 しかしそれは、彼女……エイミィに向けられた物では無い。

 

 

「仮第1班、名前申告! 合図の後に訓練開始!」

 

 

 自己紹介代わりの基礎訓練、障害物の壁3つを超えてダッシュ、そしてその先のポイントに立ててあるフラッグを倒した後に陣形展開。

 1学年30人、2人で1班。

 正式な班・コンビ分けが1回生の後半で行われるまでは、入学試験の順位順に班分けが行われているのだ。

 エイミィは3位で2班、そして今、全員の注目を集める第1班は……2人共が、7歳の子供だった。

 

 

「……1A、クロノ・ハラオウン」

「1B、イオス・ティティアでっす!」

 

 

 1人は無表情で静かに、もう1人は明るく笑顔で。

 仮の識別ナンバーの後に名前を述べた2人は、無表情は黒髪、笑顔は水色の髪の男の子だ。

 どちらもあどけない、まさに幼い子供。

 しかし入学試験の成績では、この場の誰よりも高位。

 

 

 ……7歳、疑うなと言う方が無理だった。

 だからこそ1番最初に訓練を受けるのは、好都合とも言える。

 実力の程がわかるという物で、誰の目にも明らかになるのだから。

 

 

「仮第1班、セット!」

 

 

 水色の髪の男の子、イオスが先行する様子で……やや前でセットする。

 いつ話し合ったのかはわからないが、妙に自然な動作だった。

 イオスの後ろで黒髪の男の子、クロノも腰を落として準備に入る。

 

 

「……ゴー!」

 

 

 スタートと同時、2人の姿が消えた。

 ……と、入学したての学生達には思えた。

 それ程のスタートダッシュだった、そしてエイミィにはわかった。

 あの2人が足の裏に魔力を乗せて地面を蹴り、スタートしたことを。

 

 

「――――クリア! 1、2……!」

「……3!」

 

 

 順位1桁の人間以外は、おそらく追いついていなかったろう。

 全員の視線が追いついた時には、すでにクロノがイオスの背中を足場に最初の壁を垂直に跳び上がっていた。

 クロノは着地と同時に下に手を伸ばし、壁を蹴るように跳んだイオスの手を掴んで引っ張り上げる。

 2人同時に壁を超えて着地、そしてイオスが先行する形で身を低くしつつ再びのダッシュ。

 

 

 ここでまた、順位の低い人間の視界から2人の子供の姿が消えて見える。

 あくまで見えるだけで、実は盛り土の傾斜や障害物を利用して姿を晒すのを最小限にしているだけだ。

 ただ、それに気付けるのは何割いるか。

 指導教官でさえ、やや呆然と2人の背中を追っているくらいだ。

 そして、瞬く間に残りの2つの壁も超えて行く。

 

 

「セッ……トッ、ブレイク!」

「……セット!」

 

 

 そして両足で滑り込むようにフラッグの下に到達したイオスが、そのままの勢いを利用してフラッグをポールから抜いて地面に倒した。

 その1秒後に到着したクロノが、地面に膝をつく相棒の背中を守るように身体を回して止まる。

 背中を合わせ、上下左右を分担してチェックする完璧な布陣。

 それは、教官が終了の笛を鳴らすのが遅れる程の見事なラン&ショットだった。

 

 

(……本物だ)

 

 

 ぞくりとした感触を胸の下に感じて、幼いエイミィは2人の首席グループを見つめていた。

 実力は本物だ、疑う余地が無い程に。

 自分が一番だと思っていた分、そのショックは大きかった。

 

 

「ん……?」

 

 

 視界の中、イオスが笑顔でクロノとハイタッチしている。

 それは良い、それは感覚としてまで理解できた。

 ただ、クロノの方は……特に何かを感じた様子も無く、愛想の無い顔のままだった。

 

 

(何よあれ……もうちょっと喜んだらどうなの?)

 

 

 それが、妙に気に入らなかった。

 それは幼さ故の嫉妬から来る物だったが、今のエイミィにはそこまではわからない。

 だから、エイミィにとってのクロノ・ハラオウンの最初の印象は。

 ――――気に入らない。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 入学から1ヶ月が経って、士官学校での生活にも慣れて来た。

 訓練は最初の初歩的な物からより実戦を想定した物に、そして同時に魔法や戦術などの理論や歴史や法律などの知識に関する講義も、日に日に難度と密度を上がっているのがわかる。

 各教科の教官から出される課題に毎日を追われながら、エイミィは己の力量が自分で思っていたほど高くは無いことに気付き始めていた。

 

 

 まず実技、年齢が若いと言うことは……基礎体力が、他と比較して無いと言うことでもあった。

 なので基本的に、前面に立つのは仮パートナーのルイーズ・W・ストボロウと言う2つ年上の少女だった。

 知識の面でも入学試験までの必要とされた知識や理論はあくまで入り口、そこからが本番だった。

 そして、エリート局員にとって不可欠である魔法の力量は……。

 

 

「……ふっ!」

 

 

 30秒間維持していた8つの魔力弾を簡易デバイスの杖を振るって放ち、自分の四方360度にアトランダムに飛び出してくる的に命中させていく。

 方向も表示時間も異なる的を見分け、順位をつけ、長時間の維持と制御の後に命中させる。

 言うのは一行で済むが、実行するのは一行どころの苦労では無い。

 

 

「おぉ~」

「よーし、2A合格! 次、2B!」

「了解ぃ」

 

 

 パチパチと拍手してくれる仮パートナーと、「合格」の宣告をくれる教官。

 普通なら喜んで良い所だろうが、エイミィの表情は晴れない。

 何故なら、的を2つも外してしまったからだ。

 この段階では6つに命中すれば良いので、それで合格になるのだが。

 

 

 おぉ……と、その時、どよめきが起こった。

 もはや見るまでも無いそれは、別の場所で同じ訓練を受けている1班の所から響いて来ている。

 有体に言えば、首席入学のクロノ・ハラオウンが8つの的全てに命中させたのだ。

 それもエイミィと違って力んだ様子も無く、表情も変えずにあっさりと。

 

 

「おぉ、あの子本当に凄いねぇ」

 

 

 ルイーズの間延びした語尾の言葉を聞き流しつつ、エイミィはクロノのことを見ていた。

 気に入らないと、本当にそう思う。

 自分が必死にやってギリギリのことを、表情一つ変えずにあっさりとやってのける。

 これでは、自分の立つ瀬が無いではないか。

 

 

 愛想が無くて、そのくせ誰よりも優秀で、なのに友達も作ろうとしない。

 というか、人を遠ざけている節がある。

 パートナーのイオス以外と一緒にいる所を見たことが無い、その様子はまるで周りを邪魔だと思っているようにすらエイミィには思えた。

 

 

「あ……」

 

 

 不意に、クロノと目が合った。

 反射的に身構えてしまうエイミィだが、相手の反応は違った。

 ふい……っと、何の興味も無いかのように目を逸らされたのだ。

 眼中に無い、そう言われたような気がして。

 

 

(嫌味な奴……!)

 

 

 士官学校以来の天才だと言われている男の子に対して、エイミィは嫉妬した。

 自身も年齢1桁での士官学校生であり、成績も悪くないと言う事実はこの際、彼女を慰めなかった。

 それまで感じたことも無い胸の奥の感情に身を焦がしながら、ただ唇を噛み締めて……。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ある日、当直でクロノとエイミィは一緒になった。

 この当直は言ってしまえば雑用であって、3回生の寮の廊下の清掃をしたり訓練用グラウンドの整備を手伝ったり、あるいは座学の講義において教官の補助をしたりするのだ。

 

 

 1学年が30人、1日に2人がこれを担当する。

 なので休日を無視する形で計算すれば、月に2回は当番が回ってくることになる。

 1回生なら誰しもが経験する苦労であって、別段エイミィも嫌だとは思わない。

 ……ただ、相手がクロノでさえ無ければ。

 

 

「……僕は向こうをやる、終わったら声をかけてくれ」

 

 

 口を開くのは、指示のような物を出す時だけ。

 それ以外は口を開くことも無いし、そもそも表情を変えない。

 掃除も、資料の持ち運びも、雑用の全てをそつなくこなす。

 疲れた様子も無く、ただ淡々と。

 

 

(何よ、偉そうに……)

 

 

 それが、エイミィの目には酷く傲慢に映るのだった。

 実際の成績でも完全に水を開けられてしまっているだけに、余計にそう思うのだった。

 別にへりくだっておだてろとまでは言わない、ただ、それでも最低限の人付き合いの仕方と言うものがあっても良いではないか。

 それでいて、同じ時間をかけて自分の倍くらいの仕事を平然とこなされた日には……。

 

 

「……ねぇ」

「…………」

 

 

 途中で声をかけてみれば、決まって無視だ。

 始まりと、終わりしか口を開かない、視界にも入れない。

 それが、どうしようも無く癪に障った。

 

 

「ちょっと」

 

 

 だから、掃除の途中で肩を掴んで強引に振り向かせたことがある。

 まだあどけなさの残る男の子の顔には、張りつけたような無表情だけがあった。

 無感動な瞳で、観察するようにエイミィのことを見上げている。

 

 

「ちょっと……成績良いからって、調子に乗らないでよね」

 

 

 そう、言った。

 言えば惨めにしかならないことを、言ってしまった。

 胸の奥に、嫌な軋みを与えるだけの言葉だ。

 ほんの少しだけ、罪悪感を覚える。

 本当に言いたいことは、もっと別にあるのかもしれないのに。

 

 

 ただそれに対して、クロノがとった行動は単純だった。

 エイミィの手を軽く払い、何事も無かったかのように掃除に戻る。

 彼女の声など、まるで何の意味も成さないかのように。

 

 

「ね」

「悪いが」

 

 

 再び言い募ろうとしたエイミィの機先を制する形で、クロノが無感情な声音で言った。

 

 

「キミの遊びに付き合っていられる程、暇じゃないんだ」

 

 

 呟くような、そんな声。

 それだけを置いて、クロノは掃除用具を抱えて歩き去っていった。

 エイミィは、その背中を見送ることしかできない。

 この一カ月ですっかり癖になってしまったのか、唇を噛み締めながら。

 

 

「何よ……」

 

 

 口を吐いて出る言葉には、力が無い。

 

 

「……何よ!」

 

 

 力が無いのは、誰にも受け止められないから。

 受け止める相手に、届いていないから。

 それが……一番、悔しいことなのだった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 さらにそこから1週間程が経って、初めて1回生にもまともな休暇が与えられた。

 それまでは休日と言っても課題や夜間訓練で忙しく、休日らしい休日は無かった。

 ただ5月のある日、ようやく1回生の面々も一息を入れる時間を得たのである。

 

 

「ねぇエイミィ、今日は皆と一緒に街に出るでしょぉ?」

「うん、行く行く! せっかくの休暇なんだから!」

 

 

 初めてのまともな休日と言うことで、エイミィを含めた1回生の表情は明るい。

 士官学校の休暇は基本的に自由待機(オフシフト)形式なので、学校施設に1時間以内の戻れる地点までしか出られないが、それでもミッドの中心部までなら出られる。

 士官候補生と言えども子供、しかも女子だ。

 街に出たいと言う願望は、あって当然の物とも言える……訓練のストレス発散と言う意味でも。

 

 

 クローゼットの肥やしになっていた私服を久しぶりに取り出して、士官学校の規則の範囲内でオシャレをして外に出る。

 それだけで、エイミィの胸はワクワクするのだった。

 

 

「あれぇ?」

「どうしたの?」

 

 

 ルームメイトでパートナーのルイーズ、エイミィと同じように私服姿の彼女は、寮施設から出る際に奇妙な声を上げた。

 士官学校の正門まで、綺麗に整えられた芝生を両側に備えた広い道を通る。

 その時、彼女は何かを見つけたらしかった。

 

 

「あれってさぁ、ハラオウンとティティアじゃないのぉ?」

「え?」

 

 

 ルイーズの指差した方向には、訓練用のグラウンドが見える。

 チラホラと上級生の姿が見える以外には、今日は誰も使用することが無い場所だ。

 遠目なため良く見えないが、確かにその中に、見覚えのある髪色の男の子がいた。

 幼いため、一際目立って見える。

 

 

「組み手、してるのかなぁ?」

 

 

 組み手、確かにそれが正しいように思える。

 しかし、その動きをエイミィは追えない。

 遠目だからとか、そんなことはおそらく言い訳にもならない。

 

 

 イオスが跳ぶ、そしてその落下の勢いのままに下へと蹴りを放つ。

 その足裏を両腕を交差させることで防御とし、クロノが受ける。

 蹴る力と受ける力が一瞬拮抗し、その後にそのままの体勢でイオスが蹴りを連続させる。

 その悉くを受け切って見せた後、クロノは大きく後退して距離を取る。

 

 

「…………」

 

 

 直後、イオスが追撃に出る。

 最初の訓練で見た時のような、瞬間的な魔力加速。

 それを数度行い、エイミィの目が追いついた時にはクロノの背後に回っていた。

 そして、クロノの脇腹めがけて蹴りを放つ。

 蹴りが主体のその戦闘スタイルは、訓練の中では見たことが無かった。

 

 

 そしてその蹴りを――エイミィには出来ないだろうが――腕立てのような体勢になるまで地面に屈んでかわし、筋力のみで身体を支え、回してイオスの足を払う。

 次いで跳び、仰向けに転んだイオスの顔めがけて拳を上から振り下ろす。

 イオスはそれを首を逸らしてかわして、そこからさらに……。

 

 

(……レベルが、違う)

 

 

 どうやったら、士官学校入学2カ月弱の1回生にあんな組み手が出来るのか。

 少なくともエイミィには出来ないし、おそらく他の誰にも出来ない。

 ただそれよりも、気になるのは。

 

 

「うぁっぶね!? おいコラてめっ、今本気で顔潰しに来ただろ!?」

「ふ……」

「笑うトコか!?」

 

 

 気になるのは、組み手の最中にクロノの表情が変わることだろうか。

 イオスとの組み手の中で、ほんのわずかだが、クロノは表情を動かしている。

 それを見た……見てしまった時、エイミィは何故かそれがどうしようも無く悔しくなった。

 悔しくて、胸が締め付けられて仕方が無いくらいに。

 

 

『キミの遊びに付き合っていられる程、暇じゃないんだ』

 

 

 いつかの言葉が耳の奥に甦って、エイミィは今の自分の格好を見下ろした。

 細いリボンのついたブラウスに丈の長いスカート、ヒールは無しだがやや踵の高い靴、シンプルだが可愛いデザインのハンドバック。

 ……少なくとも、これから自主練をしようと言う人間の格好では無い。

 

 

「……エイミィ?」

 

 

 2つ年上の友人の声が聞こえるが、エイミィには答えられなかった。

 唇を噛んで俯いて、両の拳を握ってスカートに皺を寄せて。

 そうやって肩を震わせる年下の友人に、ルイーズは困惑しきった様子で声をかけ続ける。

 

 

「どうしたのぉ、どうして……どうして泣いてるのぉ?」

「……っ」

 

 

 悔しい、悔しい、悔しい。

 それが何かは、今のエイミィにはわからない。

 ただ胸が張り裂けそうに痛くて、エイミィは声を殺して涙の滴を零し続けた。

 その意味を、知らないままに。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 6月の最初の日、士官学校1回生の面々はミッドチルダ南部の山岳地帯にいた。

 そこまでは3日かけての行進講義であって、4日目の今日は別の訓練が課されることになっている。

 宿泊施設に泊まったわけではなく、山や森にキャンプを張っての休息。

 正直な所、1回生30人の顔色は良いとは言えなかった。

 

 

 ただ皆が疲労の極みにある表情を浮かべる中で、例外が2人いる。

 クロノとイオスのいつもの2人、北部から南部への行進でも1位と2位である。

 ただそれでもイオスは肩を鳴らして疲労をアピールしているのでまだマシな方で、表情を変えることなく平然としているクロノに対してはもはや畏れを含んだ視線が向けられていた。

 

 

「あとたった3キロだ! しゃんとしろぉっ!!」

 

 

 そんな中、教官の怒声が響いて全員が姿勢を正した。

 最初に学んだ整列を守り、乱れを作らずに静かに立ち続ける。

 ただ内心は、残りの3キロについて本当にうんざりしていた。

 

 

 ここは南部にある管理局所有の訓練地、エルハスカ山。

 標高は大したことが無いものの、この低い山を簡易デバイス及びその整備品一式を担いで踏破しなければならない。

 低くとも山は山、しかもただの踏破では無く人工・自然の障害物を超えていかねばならない。

 厳しい任務に耐え得る局員として必要な総合体力を練成する、と言うのがこの訓練の趣旨だった。

 

 

「障害の高低差は最大145メートル、距離は3キロ、障害数は自然障害を含めて14個! 魔法の使用は禁止だぁ! なお各ポイントにいる教官に番号と名前を伝えてチェックとしぃ、各自40分以内に最終地点まで踏破せよ! 達成できなかった場合はぁ……」

「…………」

 

 

 身体の奥に溜まった疲労を堪えつつ、エイミィは直立不動の体勢で教官の話を聞いている。

 内容はまさにうんざりな物だが、毎年恒例の踏破訓練だと言うならば突破せねばならない。

 そう思いつつ、その視線は自分よりも前方に並ぶ黒髪の男の子に向けられていた。

 しかし、相手がエイミィを見ることは無い。

 そのことを改めて自覚して、エイミィは視線を前へと戻した……。

 

 

「万が一事故を目撃した場合はすみやかに教官に報告することとしぃ、勝手な行動は慎むこと! ペース配分は自由だが、40分以内には必ず踏破すること! 良いなぁ!? ……いよぉーし、では時計合わせぇ!!」

 

 

 腕の時計の数字を合わせて、40分がスタートする。

 荷物を背負って準備を整えた制服姿の生徒達が、次々とスタートして行く。

 その中には当然、皆と同じように簡易デバイスの杖を背中に背負って歩くエイミィの姿もあった。

 

 

「エイミィ、最初はゆっくり……って、エイミィ? ちょっとペース早くない?」

「え、ああ……」

 

 

 自然、足が早くなっていたらしい。

 ぐんぐんと後続を離す勢いで歩くエイミィに、ルイーズが声をかけてきた。

 まだスタート直後だと言うのに、スパートでもかけているかのような速度だったからだ。

 

 

(でも……)

 

 

 前を見れば、当然のようにそこにはトップ2の2人がいる。

 イオスと、クロノ。

 クロノは無表情に、イオスなどは欠伸などしつつ歩いている。

 スタート時点で疲れきっている他のメンバーとは、まるで違う確かな足取り。

 

 

 それを視界に収めて、エイミィは自分も可能な限り力強く足を踏み込んだ。

 疲労を堪えて、唇を噛み締めて。

 何かに挑戦するように、悲壮な努力を重ねて。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「よっ……とぉ。ふぅ、結構キツいなー」

「ロッテの訓練に比べれば、どうということは無いだろう」

「少なくとも命の危険は無いからなー」

 

 

 などと言う会話をしつつ、イオスは服についた泥を軽く払った。

 彼の後ろには両岸が十数メートル程の崖があり、今しがたそこに張られたロープを伝って渡ってきた所だ。

 肩足を絡めて進む独特のやり方で、疲労を最小限に押さえつつ崖を渡れる。

 

 

 普通の子供であれば身体が竦んで途中で動けなくなってしまうこともあるだろうが、この2人に関して言えばそう言うことは無い。

 何故なら、彼らは5歳の頃から何度も死線を彷徨っているから。

 彼らの師は、修行の最中に彼らが死んでも「やむなし」とする方針を取っていたからだ。

 

 

「さぁ、担当の教官に終了を伝えてから先に進むぞ。時間はあるが、なるべき早く終わらせたい」

「ま、成績が上であれば上であるほど、俺らの目的を達成するのには役立つわな……けどよ、クロノ」

 

 

 ん、と肩を回しながら――7歳の仕草では無い――イオスが言う。

 

 

「お前、もーちょっと愛想良くならね?」

「僕は元々、こう言う顔だ」

 

 

 憮然とした表情で言うクロノに肩を竦めて見せて、イオスはふと後ろを見た。

 2人はかなりのハイペースで来ている、個別訓練であるためパートナーと行動を共にする必要はないが、自然とそうなってしまうのだ。

 しかし……遥か彼方に引き離している後続の中で、1人だけ2人について来ている人間がいた。

 

 

「あの姉ちゃん、やるなぁ」

 

 

 感心したように言うその視線の先、簡易デバイスを背負ってロープにしがみつき、ゆっくりとした動作で崖を渡っている少女がいる。

 エイミィだった、彼女は下を見ず、ひたすら前だけを見て進んでいる。

 皮肉なことに、その時のイオスはやけに年相応に見えた。

 

 

「……行くぞ」

「良いのか? あの姉ちゃん、お前にやたら絡んでくる奴だろ?」

「僕にとってはどうでもいいさ、それに……」

 

 

 ちらりと一瞬だけ後ろのエイミィを見て、しかしすぐに視線を逸らし。

 

 

「……今は良くても、その内に体力が尽きてバテることになるだろうからな」

 

 

 そう言って、クロノは歩きだした。

 その背中を見つつ、それからまたエイミィを見て、イオスは肩を竦める。

 やれやれ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ところがクロノの予測は外れ、エイミィはとにかくついて来た。

 途中の障害を超える際に危ない部分があり、その都度教官から注意を受けつつも、とにかくクロノ達についてきた。

 クロノは全く気にしていない様子だったが、イオスは何度か後ろを見て。

 

 

「なぁ、あの姉ちゃんヤバいんじゃね?」

「…………」

 

 

 クロノは反応を返さないが、実際、彼らについて来る少女の体力が限界なのは明白だった。

 ぜぇ、はぁ……と、エイミィが息を切らせる音がイオス達の耳にも届いているし、酸欠なのか顔面は蒼白で、頼りなくヨロめきながら歩き、時々何も無い所で足をもつれさせて転びそうになっている。

 汗がとめどなく顎を伝って下に落ちているし、どうやら水分の補給も忘れているようだ。

 どう控えめに言っても、「もうすぐ倒れます」と言う風にしか見えなかった。

 

 

 しかし、エイミィは最後の障害までついて来た。

 最後の障害は自然障害で、切り立った崖を登ると言う物だった。

 茶色く脆そうな岩肌、ほぼ垂直にそびえ立つそれは、高さにして140メートル程だ。

 これを、魔法無しで登る。

 

 

「おい2A、本当に大丈夫か?」

「……大丈夫です!」

 

 

 教官に叩きつけるように言葉を返して、エイミィはまず大きく息を吐いた。

 膝に手をつき、顎の汗を拭いながら上を見れば、すでにあの2人が十数メートル上にまで登っているのが見える。

 それに対して目を細めてから、エイミィはクライミング用のロープに自分の腰に巻いた命綱のフックをかけた。

 

 

 強度を確かめながら崖に足を掛け、腕を持ち上げるように登り始める。

 疲労の極みにある腕に、身体の重みがかかって歯を食いしばる。

 なるべく3点に力を込めながら登るが、ペースはそれほど上がらない。

 頂上から垂れているロープを握って登り、ロープを繋ぐ鉄杭のポイントが来る度に命綱のフックを掛け直す。

 

 

「う……く……っ」

 

 

 肘から先の感覚が無い、そもそも自分が身体のどこを動かしているのかも判然としない。

 危険な状態だと自分でもわかる、それでも手も足も止めない。

 止めたく無かった。

 

 

 よくわからないが、止めてしまえばそれで何かが終わってしまいそうな気がしたのだ。

 自分が今までやってきた頑張りとか、努力とか、見栄とか、悔しさとか、そう言うものが。

 全部、終わってしまう気がして。

 

 

「う、うぅ……!」

 

 

 ――――エイミィ・リミエッタは、捨て子だった。

 何故そう思うかと言えば、彼女が物心ついた時には施設で養われていたからだ。

 リミエッタと言うのは、施設の名前だ。

 その施設が管理局系列だったのは、幸運だったのか不幸だったのか……今となってはわからない。

 

 

 魔法の才能があるとわかったのは5歳の頃、それがわかってからは施設を出て管理局の幼児訓練施設へと移った。

 貧しい施設時代に比べてずっと良い生活が出来るようになったが、その代わりに将来の選択肢が決まってしまった。

 それでも施設に戻りたく無くて、必死に努力して、士官学校に入れるまでになって。

 

 

「……う、んっ……はぁ……はっ」

 

 

 そして今、生まれて初めて壁にぶつかっていた。

 自分よりも年下の子供が、自分よりも優秀な成績を収めている。

 それが意味する所を考えると怖くて、その恐怖を払うために、無理して……その結果。

 

 

「あん……って、オイ!」

 

 

 その時、相変わらず十数メートル上を登っていたイオスが、片手でロープを握った体勢で後ろを向いた。

 何気なく後ろを見た彼は、それを見て血相を変えた。

 

 

「バッ……フック、外れてんぞ!?」

「え……?」

 

 

 気付いた時、エイミィは自分の腰の下で命綱が揺れているのを見た。

 フックが外れている、否、つけ直し忘れたのだ。

 そう認識した時、エイミィはズルリと手を滑らせた。

 汗が、掌の汗がロープを滑らせて、支えを失ったエイミィの身体を自由落下へと導いた。

 

 

「あ……」

 

 

 次いで足を踏み外し、伸ばした手はたわんだロープを掴めなかった。

 身体に浮遊感を感じながら後ろを見れば、誰もいない、緑の地面が数十メートル下に見えるばかりで――――。

 

 

「あ、た……」

 

 

 空を掴むように腕を動かしてもがいて、直後。

 

 

「……たすけて……!」

 

 

 落ちた。

 

 

「うぁっ……わ、ぁああああああああぁぁぁっっ!?」

 

 

 魔法のことなど思いつけない、それ程の恐怖がエイミィを包んでいた。

 落ちる、死ぬ、それだけしか考えられなかった。

 

 

「やっべ……! クロ」

「イオス!!」

「って、俺か! しゃーねぇなぁもぉ……!」

 

 

 エイミィの落下と同時にクロノがロープから手を放す、一瞬遅れたイオスが苦々しい顔で親指を立てる。

 そして足裏の魔力を爆発させて、いつかの訓練のようにクロノが一気に真下へと「駆けた」。

 それは自由落下するエイミィよりも遥かに早く、十メートル程落下した時点でエイミィに追いついた。

 

 

「……疾れ、紅の剣……!」

 

 

 エイミィの耳元でクロノが何事かを呟く、それが何かはエイミィにはわからない。

 ただ、自分がクロノの腕に掴まれたのはわかった。

 そしてクロノの杖のコアから、青白く輝く魔力の鎖のような物が発現した。

 

 

「『チェーン・バインド』!!」

 

 

 バインド魔法だ、しかし鎖は伸びるばかりで何も掴めない。

 クロノは片腕をエイミィの腰に回して掴んだまま、その鎖の行方を見定める。

 そして不意に、その鎖は何も無い場所に固定された。

 ガクンッ、と強く引かれ、クロノが顔を顰める。

 

 

「あれは……」

 

 

 クロノの腕にぶら下げられながら、エイミィは上を見た。

 クロノの放った魔力の鎖は、別の魔力の輝きによって固定されていた。

 水色の輪っかのようなそれは、エイミィも知る基本魔法……『リングバインド』。

 空間設置・固定の術式で、クロノの『チェーンバインド』の掴まる場所を作ったのだ。

 

 

(……あ……)

 

 

 自分を抱え上げるクロノの姿を視界に収めながら。

 ……エイミィは、そっと目を閉じた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

「ああ、重かった……でも、鎖って良いかもな……」

 

 

 『リングバインド』で2人分の体重を支えることになったイオスは、2人を引き揚げた後にその場に転がった。

 流石に疲れたらしい、しばらく動けそうになかった。

 一方でエイミィも、結局、上までイオスとクロノに引っ張り上げて貰った。

 崖の途中からは、魔法の力を借りたとは言え……2人のお荷物扱いだった。

 

 

「…………」

 

 

 そして、腰が抜けたかのようにその場にへたりこんでいる。

 両膝を地面について座り、膝の上で両の拳を握り締めている。

 カタカタと身体を震わせているのは、恐怖か安堵か……。

 

 

「……なんで……」

 

 

 傍らに立ち、流石に疲れた様子を見せているクロノは、エイミィが何事かを呟いていることに気付いた。

 相変わらずの無感動そうな様子で、ゆっくりと俯く彼女を見下ろす。

 

 

「……何で、助けたの……?」

「何故も何も、キミが助けてくれと言ったんだろう」

 

 

 魔法が禁止されている訓練で魔法を使ってしまった、なので成績に関しては諦めるしかない。

 とは言え、成績のためにエイミィを見捨てる選択肢はクロノの中には無い。

 それは、自分達が選んではいけないことだと思っているからだ。

 

 

「まったく、自分の限界も弁えずに無理をするからそうなる。無理をして命を落としてしまえば、何を目指していようと意味が無いんだぞ」

 

 

 そう、命を落としてしまえば何も出来ない。

 何かを思い出すかのように目を閉じて、すぐに開く。

 

 

「まぁ、キミがどう言うつもりで無理をしたのかは知らないが」

「……ぃ……」

「何?」

「あそびじゃ、ない!!」

 

 

 きぃ……ん、と耳が鳴った。

 クロノが軽く眉を顰める程の大声で、エイミィは叫んだ。

 遊びじゃ無い、と。

 

 

「遊びで、やってる……わけじゃ、無い……!」

 

 

 みっともない。

 エイミィは今の自分の状態を、そう自己評価した。

 無理をして自爆して、一番助けてほしくない相手に助けを求めて助けられて、あげく意味不明な逆ギレである。

 

 

 みっともないこと、この上なかった。

 情緒不安定も甚だしい、さぞやクロノやイオスからは奇妙な目で見られていることだろう。

 しかしそれでも、証明したかった……認めさせたかった。

 遊び半分で士官学校に入学したわけでは無いと、認めさせたかった。

 そうでなければ、哀しすぎる。

 

 

(悔しい……悔しい!)

 

 

 視界が霞み、胸の奥が嫌に熱く感じる。

 どう処理すれば良いのかわからない感情の波は、9歳の少女が扱うには複雑すぎた。

 例え大人びていても……経験が、足りないから。

 ただ、それはどうやらエイミィだけでは無かったようで。

 

 

「…………クロノ、お前なに泣かしてんだよ」

「いや……違う、僕は別に……」

 

 

 びっくりした顔で身体を起こしたイオスに、クロノは表情を変えず、しかし弱り切った声音で言い訳をしていた。

 しゃがみ込んでボロボロと涙を零す少女と、無表情に困っている男の子。

 イオスの視点からは、それはかなりシュールな光景に映っていた。

 

 

「ほら、良いから謝れって。何したのかは知らねーけど」

「いや、でも」

「ほら」

「む……あ、あー、リミエッタ、さん? すまない、僕は別にそう言うつもりじゃ……」

 

 

 弱り切った声、それにエイミィはグスグスとしゃくり上げながら上を見た。

 すると、そこには無表情は無い。

 軽く眉根を寄せて、困り切っているクロノの顔がそこにあった。

 ……エイミィはその顔を、じっと見つめていた。

 

 

「……はぁ……」

 

 

 何も言ってこないエイミィに、クロノは溜息を吐きながら手を差し伸べた。

 エイミィはその小さな男の子の手を見つめた後、再びクロノの顔を見て。

 

 

「……すまなかった。キミは遊びでやっていたわけじゃない、認めるよ」

 

 

 認めるよ。

 その言葉で、エイミィは自分の中の何かのタガが外れたのを感じた。

 今まで何かを堰き止めていたそれが外れてしまって、そして。

 

 

「だから、とりあえず泣きやんで教官のとこ……ろ、に?」

 

 

 そして、くしゃり、と顔を歪めた後。

 

 

「う……う、ぅ……うぁ、ぁぁああああぁぁ……っ!!」

 

 

 声を上げて、泣き始めた。

 それまで声を押し殺して、悔しさから涙していた少女は、今度は声を上げて泣き始めた。

 その様子に驚いたのか、水色の髪の男の子は逃げるように教官を呼びに行き、そして逃げ遅れた黒髪の男の子は、声を上げて泣き続ける女の子を宥めようとしては失敗するのだった。

 

 

 申し訳ないと思いながらも、エイミィは泣いた。

 泣いて、泣いて……イオスが教官を連れて来るまで、泣き続けた。

 子供の……まさに、子供そのままに。

 声が枯れるまで、大声で。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 ――――後日、ある休日。

 クロノとイオスの1回生コンビが休日でもグラウンドで何らかの訓練をしているのは、もはや知らぬ者のいない事実であった。

 ……が、最近、その自主練の人数が増えていることも知られ始めていた。

 

 

「はーい、お疲れー! ドリンク飲む? あ、と言うかまずはタオルだよね」

「いや……自分で出来る、んだが……」

「いーからいーから。クロノ君が自分でやると適当なんだもん、見てるこっちが寒いよ」

 

 

 例えば、組み手が終わった黒髪の男の子の頭をタオルでゴシゴシと拭いている癖毛の女の子とか。

 運動部のマネージャーか何かかと言いたくなる程の世話焼きっぷりに、呆れだったり嫉妬だったりがこもった上級生の視線が集中している。

 

 

 男の子の方は若干面倒そうだが、しかし振り払うようなことはしていない。

 また泣かれるのが怖いのかもしれない、2人の様子を見ている水色の髪の男の子はそんなことを考えていた。

 ズズズズズ、とスポーツドリンクをストローで飲みながら、2人の様子を生温かい目で見つめている。

 

 

「つーか、あの姉ちゃんキャラ変わってね?」

「いやぁ、元から面倒見は良い方だよぉ。私も部屋では随分お世話になってるからぁ……まぁ、意地張ってたんだねぇ」

「……いや、俺からしたら何でアンタがいるのかわからないんだけど?」

 

 

 薄茶色のポニーテールの少女がのんびりとそう言うのを、イオスはジト目で睨んだ。

 何故か知らないが、エイミィがクロノ達の自主練に付き合うようになった次の日あたりから、このルイーズと言う少女もちゃっかり参加するようになっていた。

 まぁ、イオスとしてはクロノとエイミィの間に挟まれるのは何となく嫌なので、ある意味では助かっているのかもしれない。

 

 

「いや、イオス……助けてくれ」

「ちょ、それってどういう意味かなー」

 

 

 言葉通りの意味だと思ったのは、イオスの内心だけの秘密だ。

 まぁ、たぶんその内に飽きてどこかに行くだろう。

 クロノもイオスもそう思って、当面の間は諦めようと思った。

 

 

 彼らにとって誤算だったのが、エイミィ達は卒業までまったく飽きなかったと言うことだ。

 そしてさらなる誤算は、むしろ彼らの方が慣れてしまうことだろう。

 加えて、その後の人生でも付き合いが生じる腐れ縁になっていくのだが……。

 ……それは、この時点では知りようのない現実だった。

 

 

「おーい、クロノ。次の組み手やろーぜ」

「あ、じゃあ次は私も混ざっても良い? 何かこう、キミ達の組み手見てるとワクワクしてくるんだぁ」

「……ヤバいクロノ、バトルジャンキーの卵がいるかもしれない!」

「何を言っているんだ、お前は……」

「あーはいはい。騒がないのー!」

 

 

 2人きりの時よりも賑やかになった自主練の時間、グラウンドの隅で毎週のように行われるそれは、後に士官学校の名物になることになる。

 そしてその人数は、まだ増える余地があって……。

 

 

「ふぅん……なかなか面白そうじゃないか、あの子達。ボクも仲間に入れてくれないかなぁ……?」

 

 

 ……そして今も、グラウンドの入り口からクロノ達を観察する少女が1人。

 萌黄色の髪に丸みのある黒縁眼鏡をかけたその少女は、顎に片手の指を当てて興味深そうにそれを見ていた。

 以前は特に興味を持っていなかったが、最近の賑やかさに目を引かれたのかもしれない。

 

 

 彼女の名はハロルド・リンスフォード。

 少し後、「ハラオウン組」の1人として同期生の間で知られるようになる少女である。

 ――――何もかもがまだ、始まったばかり。

 この後の未来がどうなるのか、この段階では……。

 

 

 ……まだ、誰も知らない。

 




最後までお読みいただきありがとうございます、竜華零です。
本番は次回で、今回はクロノさんとエイミィさんの馴れ初め的なお話です。
なので、ええ、次回はそう言うお話です。


12月の最初の方で原作第3部(いわゆるStrikerS編)に入れるかな、と思います。
雌伏編でもいくらかその要素を出してますので、まさかやらないと言うことはないです。
それでは、また次回で。

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